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コミュニケーションの技術に関する講義 テキスト

コミュニケーションの技術に関する講義


◆利用者宅への訪問

・ヘルパーから見た利用者宅への訪問

利用者宅へ最初に訪問することは、知り合いの家でもないお宅にお邪魔するということ。それは緊張もするし、気まずいことでもある。また、ご自宅の調理器具や生活道具を使わせてもらうということで、やりにくさを感じることもある。他にも、利用者の体自体に触れるサービスも行うということで、安全に行わなければならないということなどから神経を使う。ヘルパーにとって、利用者宅に訪問してサービスを行うということは、慣れるまでに時間を必要とすること。

・利用者から見たヘルパーの訪問

ヘルパーが緊張したり、気まずい思いをしながら知り合いの家でもないお宅にお邪魔するとき、利用者から見ると、見ず知らずの他人が家にやってくるということになる。見ず知らずの他人が家にやってくるとなった時に、どのように感じるか。警戒もするだろうし、嫌だと感じることもある。また、ご自宅の調理器具や生活道具を使わせてもらうということで、ヘルパーがやりにくさを感じる一方、利用者から見ると家の中の道具を使用されるということになる。家の中の道具を他人に使用されるとなった時に、どのように感じるか。壊されてしまう心配もするし、できれば使ってほしくないと思うこともある。他にも、利用者の体自体に触れるサービスということでヘルパーが神経を使っている一方、利用者から見ると自分の体を他人に委ねるということになる。自分の体を他人に委ねるとなった場合、どのように感じるか。恥ずかしさを感じたり、生命の危険を感じることもある。利用者さんから見たヘルパーは、このような存在である。利用者さんが感じている気持ちを理解し、そのうえで信頼関係を築いていくことが必要。だからこそ、基本的なマナーや心構えといった面、そして第一印象が重要となる。

◆身だしなみ

・「人は外見で他人を判断する」

利用者さんからの第一印象を良くするためには、まずは身だしなみに気を遣うことが必要。人は初対面の相手に会った時、まず外見で他人を判断する。外見ではなく内面を見てほしいと思っても、人は他人の内面を最初から知ることはできない。人は初対面の人やよく知らない人については、身だしなみや態度など見た目から様々なことを想像し、判断する。そして、このような初対面の印象は後々まで相手の脳に残る。これを「初頭効果」と言う。

また、最初の物事が印象に残りやすい初頭効果の逆で、最後の物事が印象に残りやすいという「親近効果」もある。人間観察力が鋭い人ほど初頭効果が出やすく、観察力のあまりない人ほど新近効果が出やすい。これは、観察力の鋭い人ほど第一印象で相手の特徴や性格を見抜く確立が高く、その事に自信を持っていることが多いため。そのため、その後に覆すような事態が起きても最初の印象を保持し続ける。別な言い方をすれば、相手と会った時の第一印象をいつまでも覚えている人は、観察力が鋭いためいつまでも第一印象に固執し続けることがあるということ。一方、相手と何度会っても第一印象を忘れてしまうような人は、自分の観察力があてにならないなどの理由で自分の眼力に自信が持てないことが多い。そのため、第一印象だけで相手の印象を固めてしまう事がなく、相手と会うたびに最新の印象に注目する。
第一印象を決定付ける要因は、見た目や態度が85%、声のトーンや話の内容が15%と言われている。

良い初頭効果はその後のコミュニケーションを良く働かせ、悪い初頭効果を拭い去るには多くの時間とエネルギーが必要になる。そして、身だしなみのような外見はその初頭効果に影響する。もちろん大切なのは外見よりも中身だが、その人の人格や考え方、心の状態まで外見に表れる。外見は「あなた」という人間に関する多くの情報を発しているので、人は外見をひとつの手かがりとして、相手とどのように向かい合うべきなのかを本能的に探る。そして身だしなみは時として言葉よりも雄弁に、あなたの「中身」を語る。

・「身だしなみとは内外に向けた自身のプレゼンテーション」

遊びに行く際の外見の場合は「自分らしさの表現」といったことが考えられるが、身だしなみは「自分がどう思うか」ではなく「相手がどう感じるか」を基準に考える。価値観が多様化している現代の見出しなみの基本ルールは、どんな相手であっても不快感を与えずに清潔感の漂う身なりをすることであり、どのような業種であっても共通する基本原則。その基本原則を守った上で、ささやかな自分らしさを発揮することが、身だしなみを考えたオシャレといえる。訪問介護における身だしなみのポイントは、清潔、調和、機能的であること。これらのポイントを押さえながら、身だしなみに気を付ける。
身だしなみがきちんとした人は、自制心と自己表現能力といった「セルフマネジメント」に長けた人だと判断されることもあり、身だしなみとは内外に向けた「自身のプレゼンテーション」である。

◆言葉遣い

・「たかが言葉遣いだが、されど言葉遣い。」

重度訪問介護で「相手」とするのは「人」であり、言葉遣い次第で相手の心をほぐしたり、サービスを受け入れやすくしたりなど、信頼関係を築く大きな役割がある。しかし時として、ヘルパーの言葉が、利用者の心を傷つけてしまうこともある。利用者の尊厳を守りつつ、同じ目線で人間関係を結ぶために、謙虚な言葉遣いが求められている。

・「言葉の乱れが感覚麻痺を促進させ虐待に繋がる」

割れ窓理論における「割れ窓」は、介護現場では「言葉」という考え方もある。割れ窓理論とは、「建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される」という考え方。環境犯罪学上の理論で、軽微な犯罪も徹底的に取り締まることで凶悪犯罪を含めた犯罪を抑止できるというもの。日本では犯罪対策や、東京ディズニーランド・ディズニーシーで取り入れられている。後者においては、どんなに小さい傷でもペンキの塗りなおしといった修繕を惜しみなく頻繁に行うことで、従業員や来客のマナーを向上させることに成功しているという事例。介護現場での「割れ窓」は「言葉」であるという考え方では、「言葉の乱れが感覚麻痺を促進させ虐待に繋がる」とされている。適切な言葉遣いをすることで自身の乱れを防ぐこともでき、それが利用者のためにもなる。

・言葉遣いの基本

*やさしい心がやさしい表現となる。
やさしい心がやさしい表現となるということは、言葉は心の表れであり、相手のことを尊重していれば自然と相応の言葉遣いになるということ。

*公私混同せず、相手に応じて使い分ける。
公私混同をしないで相手に応じて言葉を使い分けるということは、利用者との関係が深くなってくるとつい忘れてしまいがちになるので、日頃から気を付ける。

*敬語を使う。語尾は延ばさず「です」「ます」
適切な敬語を使い、語尾は伸ばさずに「です」「ます」で話すということは、相手を尊重している気持ちを伝えるためなので、正しい敬語を身につけなければならない。

*少しゆっくりと話す。
ゆっくりと話すということは、早口になると相手は理解しにくいということ。ただ、高齢者の方に対する話し方と同じように話していると、人によっては馬鹿にされていると感じる方もいるので、そこは注意する。

*専門用語や横文字はなるべく避けて、誰にでも分かる言葉を使う。
専門用語や横文字はなるべく避けて、誰にでもわかる言葉を使うということは、物事を難しく伝えることは誰にでもできますので、難しい内容でも分かりやすく平易に伝えることを心掛ける。

*なれなれしい言葉、流行り言葉、省略言葉は禁句
なれなれしい言葉、流行り言葉、省略言葉は禁句ということは、相手のことを尊重し、分かりやすく伝えることを心掛けていれば自然と使わなくなる。

・好ましい言葉遣い

「~していただけますか」、「~しましょうか」といった依頼や了承を得る表現
「~しましょう」、「~は、~できます」といったポジティブな表現
「そのとおりですね」、「そうですか」といった相手を受け入れる表現
「何がお好きですか」、「いつでもおっしゃってください」といった相手中心の表現
「大丈夫ですよ」、「すぐ行きます」といった安心感を与える表現
「今、取り替えます」、「少し、動かします」といった予告の表現

他に便利な言葉として、クッション言葉がある。時として、注意・忠告・依頼・断りといった相手の意に添わない話を切り出すこともあるが、その際に一言、クッション言葉を文頭に添えると、相手に与える印象が柔らかくなり相手が受け入れ易くなる。例としては、「おそれ入りますが」、「よろしければ」、「お手数ですが」、「お差し支えなければ」、「申しわけありませんが」、「失礼ですが」、「ご面倒ですが」など。

・好ましくない言葉遣い

「~してね」、「ダメじゃないですか」といった指示・命令・否定する表現
「ごはんだよ」、「あのね」といったなれなれしい表現
「汚い」、「重い」といったネガティブな表現
「速く!」、「まだ?」といった自分中心の表現
「マジ?」、「それな」といったカタカナ表現や流行り言葉
(「それな」=一般的に「うん、うん」と相槌を付くのと同じ感覚で、TwitterやLINEなどで話されている深い共感を示す意)
「~してあげる」、「来てあげる」といった利用者のプライドを傷つける表現

◆バイスティックの7原則

・概要

利用者と援助者間の信頼関係を構築するための倫理と行動の原則をまとめたもの。福祉に関わる専門職に必要な基本的な作法と言われている。
専門職には専門的な知識や技術が不可欠であるが、倫理は知識や技術を用いる基本となる。その関係は一本の木に例えられ、木の根が「倫理」、木の幹が「知識」、木の枝が「技術」となり、知識や技術が身についていても根にあたる倫理が未成熟では、せっかくの知識や技術もうまく活用できなくなってしまう。それほど倫理の重要性は高い。

個別化の原則 「同じ問題は存在しない」

利用者の抱える困難や問題は、どれだけ似たようなものであっても、人それぞれであること。
利用者のラベリング(人格や環境の決めつけ)やカテゴライズ(同様の問題をまとめて分類してしまい、同様の解決手法を執ろうとする事)はやめ、一人の人間として捉えて対応する。


*間違った「個別化の原則」例
この利用者さんは○○という障害だから、前に同じ障害を持つ人の対応をした時に満足してもらえていたし、その時と同じように対応しよう。←同じ障害でも一人ひとり異なる。

意図的な感情表現の原則 「利用者の感情表現を大切にする」

利用者が自己の感情を自由に気がねなく表現できることを認め、意図的に関わること。
利用者も一人の人間であり、否定的な感情や独善的な感情も持っており、そのような感情さえも表に出せるように関わる。

*間違った「意図的な感情表現の原則」例
利用者が自分の知り合いの人を激しく非難していたので、「そんなこと言わない方がいいですよ」と言った。←感情を表現し開放することは利用者にとって必要なことであり、それを妨げてしまうと、今後利用者が自由に感情表現しなくなる。

・統制された情緒関与の原則 「利用者の感情を理解し、自らの感情を自覚する」

利用者の感情に呑み込まれないように、自らの感情をコントロールすること。
利用者は表出した感情に対し、共感的理解と適切な反応を得たいと考えている。

*間違った「統制された情緒関与の原則」例
知り合いの人が亡くなった利用者が、その話を笑いながらしていたので、こちらも笑顔で話を聞いた。←利用者の表出した感情に左右されず、その感情表現の意味を理解する。

・受容の原則 「あるがままを受けとめる」

利用者の考えや行動は利用者の「個性」であり、それらを否定することなく、どうしてそういう考え方になるかを理解するという考え方のこと。
ただし、「受容」と「許容」は異なり、自らの価値観や社会的ルールから逸脱したことを許容しなくても構わないが、受けとめる。

*間違った「受容の原則」例
調理中に利用者が一般的なレシピと異なる手順を指示してきたので、「普通の手順はそうではない」と言った。←頭ごなしに否定せず、利用者の個性と受けとめる。

・非審判的態度の原則 「自らの判断を利用者に押し付けない」

受容の原則と深く関係しており、利用者の行動や思考に対して社会常識や自らの価値観で評価しないとする考え方のこと。
善悪の判断は利用者自身が行うものであり、ヘルパーが判断するものではない。

*間違った「非審判的態度の原則」例
利用者が新興宗教に加入し、その教え通りに生活をしていたので、「そんな宗教間違っています!」と言った。→善悪の判断をヘルパーはしてはならない。まして批判や非難をしてはならない。

・自己決定の原則 「利用者の自己決定を促して尊重する」

自らの行動を決定するのは利用者であるとする考え方のこと。
利用者は、自分の人生に関する選択と決定を自ら行いたいとする望みを持っており、その自己決定を尊重する。

*間違った「自己決定の原則」例
利用者がスーパーでどちらの商品を購入するか迷っていたので、「こっちの方が良いですよ!」と言った。→それぞれの長所・短所の説明はしても、ヘルパー側が選択をしてはならない。また、説明する際も選択結果を誘導してはならない。

・秘密保持の原則 「専門職としての職業倫理、守秘義務」

利用者の個人情報・プライバシーは絶対に他方にもらしてはならないとする考え方のこと。
個人情報保護の原則であり、利用者との信頼関係の樹立という点でも不可欠。

*間違った「秘密保持の原則」例
利用者のキャッシュカードの暗証番号を知る機会があり、友達に教えた。→個人情報・プライバシーに関することは絶対に人に教えてはいけない。仮に人に伝える場合は、必ず利用者から事前に同意を得ておかねばならない。

◆利用者との関わり

・対応のポイント

訪問サービスは利用者の自宅というプライベートな空間に入っていく仕事のため、家での生活の主導権は利用者にある。そのため、利用者のライフスタイルや価値観、生活のリズムに合わせて介護を行っていかなければならない。利用者は自宅の中に他人を入れるということになるので、当然ながら、利用者の個人的な物・事がヘルパーに知られてしまう側面を持つ。ヘルパーは、利用者やご家族のプライバシーを守ることを絶対として、信頼関係を築いていくことが何よりも重要となる。


「介護」は単純な「世話」とは異なる。「世話」は利用者のご家族などが行う日常生活であり、「介護」は計画に基づいた専門的な技術である。利用者に対して「世話」をすると考えることは、利用者のことを他者の支援を受けなければならない弱者としてとらえることになってしまう。そうとらえてしまうと、ヘルパーの判断で「世話」が必要、「世話」が意味のあることとして支援を行ってしまう危険性がある。また、障害によって失われた機能という意味で「できないこと」に注目しがちにもなり、「世話」をすることで利用者の自立の妨げにもなる。本当に「世話」が必要なのかどうかは利用者にしか分からないことであり、「介護」をしていく上では、利用者自身がどのように考えているか、利用者が求めていることは何かを考えていくことが重要。

*守秘義務を守る
利用者宅で知った、利用者とその家族などに関する病名や病状、生活歴、家族構成、趣味嗜好、金銭に関わることなどの情報を、第3者に漏らしてはならない。第3者とは、自分の家族や友人も含まれている。これは職務中だけではなく、その業務を外れた後や退職後であっても同様に守秘義務の規制は及ぶ。 利用者について話してよいのは事例検討やオリエンテーションの時だけであり、喫茶店や飲み屋、電車の中などで利用者の話をしてはいけない。

*個人を尊重したサービス提供を行う
利用者の意思を尊重し、日常生活を支援するということは、利用者が築き上げた生活歴や価値観をヘルパーの価値観や社会的通念を押しつける事なく、利用者の長年築き上げた生活歴を理解しようと努力し、その人らしい生活が送れるよう支援すること。

*介護される側の心理を理解する
介護が必要となった利用者の心理を理解し、共感的態度で接して安心した生活が送れるよう支援する。出来ていた事が出来なくなる情けなさ・不安感・羞恥心・いらだち、希薄になる社会性などを理解し、それらに配慮した態度で接する。

*時間を厳守する
早かったり遅かったりせず、決められた時間に訪問しなければならない。時間を守らないことで、利用者からの信用を失うこともある。

・傾聴

*概要
話をきくという意味で用いられる漢字には、「訊く(ask)」、「聞く(hear)」、「聴く(listen)」とある。傾聴での「聴く」は「listenの聴く」のこと。傾聴を一言で言い表せば「相手の顔を見つめ、相手の話をしっかり聴くこと」。「聴く」とは耳を傾けて注意深く聞こうと努力することであり、俗に「聴く」という字は「耳+目、心」で成り立つ漢字と言われ、耳も目も心もすべて使うことが必要である。相手の話を聴くことは、相手を受け入れ、相手を理解しようとすることで、そのような聴き手の態度が相手の話の内容をさらに深めることにもなる。また、傾聴のポイントとしても、それぞれ単体でも、次の3つが重要となる。

*共感
共感とは、相手の感情に寄り添うこと。相手の気持ちを拒否したり否定したりせずに、相手の感情や気分、考え方について積極的に理解しようと努めることは、コミュニケーションの大切な基本姿勢。ただし、「共感」と「同感」は異なる。「同感」では、相手と自分の思い、考え方、価値観が同じときに限って相手のことが分かる感じ方で、それはあくまで自分中心。一方の「共感」では、相手と自分の思い、考え方、価値観が違っていても、相手の気持ちを受け止めるという感じ方であり、あくまで相手中心。

*受容
受容とは、相手のことをしっかり受け止めること。相手を無視したり、批判したりしないであるがままの相手を受け止めなくては受容ではない。相手の感情だけでなく、相手の持っている考え方や問題、悩みや不安についても、自分も相手も一人の人間として受け止めることはコミュニケーションの基本姿勢となる。

*支持
支持とは、相手を精神的に支えること。相手を受け止めるだけでなく、相手を肯定的にとらえ支えることも大切。相手の個人的な価値観や人生観について、反論や批判をせず、包容的に理解しようとすることが必要。相手の健康面や強さを評価し、相手の自尊心や自己肯定感を認めることもコミュニケーションの基本姿勢。

・利用者との関わりに関する用語

*ラポール
お互いに信頼し合い、安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える関係が成立している状態。「心が通い合っている」「どんなことでも打明けられる」「言ったことが十分に理解される」と感じられる関係。

*自己覚知
自分がどのような価値観をもっているのか、自分がどのような状態にあるのかを知っておくこと。自分と異なる価値観を持った他者を理解し、受容するために必要。人は自分の思い、感情、考え方など、自分自身の捉え方でしか他者を捉えることができない。そのため自己覚知が出来ていないと、本人にそのつもりがなくても自分と異なる価値観を持った人を否定し排除してしまう。人によって価値観は様々であるため、それは利用者の否定や同僚の否定、そして自ら以外の全ての人間を否定することになってしまう。自己覚知は対人援助職にとって必要不可欠なことである。

◆コミュニケーション機器・技術


・コミュニケーション


*感情の伝わり方
コミュニケーションの中で、気持ち、感情がどのように相手に伝わるかというと、言語よりも非言語のほうが伝わる。
話す言葉そのものの意味では7%、残りは非言語によって伝わる。非言語の中では、声の高低といった質、速さ、大きさ、テンポといった聴覚情報が38%見た目、身だしなみ、しぐさ、表情、視線といった視覚情報が55%と言われている。非言語には大きな影響力があり、無意識に自分の内面が相手に伝わることが多い。また、言語と非言語のメッセージが反対の場合、相手は非言語のメッセージで表された内容で受け取る。そのため、自分自身の言語と非言語をコントロールし、利用者やご家族の非言語のメッセージからも気持ちを感じ取ることが必要。また、表情、身ぶり、声のトーン、話す速度、言葉づかいなどの非言語部分をさりげなく相手に合わせるペーシングを意識的に行うと安心感を与えることができる。

*コミュニケーションの基本形
コミュニケーションは、待つ→聴く→理解する→反応するというサイクルを繰り返す。待つ段階では、姿勢・視線などに気を付けながら非言語的に相手が語り出すのを支える。相手がなかなか話しにくい場合は、適切な語りかけをして促す。聴く段階では、とにかく集中して聴く。適切な質問や促しなども用いながら(=能動的傾聴)、非言語的にも傾聴していることを表す。理解する段階では、言語的理解(話を表面的に言語的に理解する)、共感的理解(感情を共感的に理解する)、メタファーの理解(言葉の裏にある真のメッセージの理解)などのレベルがあり、可能な限り高レベルでの理解をする。反応する段階では、理解したことを反射して相手に返す。この時には応答技法を使用すると効果的。

・応答技法例

*繰り返し
相手が話した表現を使い、そのまま繰り返して伝える応答。話のポイントが繰り返されることで、自分の伝えたいことが相手に伝わっていることを実感できる。相手が強く訴えたいと思っている言葉を選んで、そのまま返していく。オウム返しになると逆効果となるため、節目や確認すべきことで返す。
 
例:「昨日はなかなか寝つけなくて、何時間もしてから、ようやく眠れました。」
 →(上記に対する応答)「何時間もかかったのですね。」

*明確化
不安や混乱により、自らの思考や感情が混とんとして明確に言語化できずにいることがある。その時に、相手の意識の範囲を広げ、自らを見つめ直し気持ちや考え、問題の核心が鮮明となるように相手の思考や感情を言葉にして伝える。

例:「えっとー、そのー、母のことが、そのー・・・。」
 →(上記に対する応答)「お母さんのことを心配されているんですね」

*要約
体験、行動、感情の経過を要約し、伝える技法。相手が長々と語った場合にそれを的確にまとめてフィードバックする。自らの話をしっかりと理解してくれていること分かり、安心して次の話に進むことが出来る。結論だけを要約するのではなく、相手の話を大切に扱いながらまとめることが必要。

例:「もともと母親とあまり連絡を取らないのよ。私は現状を知ってもらおうとメールをしているのに返事がないの。親に何かあったんじゃないのか心配なのよ。メールを見ていないだけかもしれないけれど。普通のメールでも既読かどうか分かる方法はないかしら。最近は夜もあまり寝れないの。メールをしたのは1週間前なのにどうしたのかしら。」
 →(上記に対する応答)「お母さんから連絡がなくて、夜も眠れないほどにご心配なのですね。」

*感情の反射
相手の表現から伝わる「いま・ここで」経験している感情を受容し、その感情を鏡のように適切に言語化して返す技法。感情中心のフィードバックをする「繰り返し」ともいえる。感情の反映によって、自らの感情に気付くとともに、それが受容されたことに安心感を覚える。また、この感情の反射は共感の行動化でもある。共感してもそれが相手に伝わらなければ効果は望めないため、共感そして受容をこちらがしていることを表現しなければならない。相手の感情や想いが出てきたら、それをキャッチすることを心掛ける。

例:「このまま眠れないと、身体を壊してしまいます。」
 →(上記に対する応答)「眠れない日々が続くと焦りますし、つらいですよね。」

・コミュニケーションの障害


*構音障害
身体的な障害から来るもので、ろれつが回らないように聞こえることが多い。「しゃべる、話す」という動作は、言語中枢からの指令で口、舌、咽頭、口蓋などの発声に 必要な構音器官の正常な運動で行われている。それに加えて、小脳や大脳基底核で滑らかな言葉になるように調節している。 このような口から言葉をだす際の音声の組み立てや調節の部分に障害のあるときに口のもつれが起きる。言葉の内容そのものには異常はなく、言葉の理解も正常。 発声にかかわる神経や筋肉は、ものを飲み込む(嚥下)運動にかかわるものと一部は同一なため、飲み込みにくさを伴うこともある。
考えられる病気としては、下記のような病気がある。
脊髄小脳変性症、小脳梗塞、小脳腫瘍などの小脳障害
パーキンソン病、進行性筋ジストロフィ、多発性筋炎
進行性球麻痺、筋萎縮性側索硬化症、延髄空洞症、延髄腫瘍
薬物・アルコール中毒、精神・心因性疾患

失語症
大脳にある言語領域が何らかの原因で傷つき、言葉がうまく使えなくなる状態。失語症になると話すことだけで なく、聞いて理解すること、読んで理解すること、書くことも困難となる。の傷ついた場所の違いによって、「聞く」「話す」「読む」「書く」の障害の重なり方や程度は異なり、個人差が大きい。原因には脳梗塞・脳出血などの脳卒中、脳腫瘍、交通事故や転落による頭部外傷などがある。
失語症のタイプには下記のような例がある。また、会話例も載せているが、いずれのタイプも個人差が大きく、あくまで例でしかない。

(失語症ではない人との会話例)
「これはなんですか?」
「これはペンです。」

「ブローカ失語(運動性失語)」

脳の比較的前の方の部分に障害が起きた場合に、聞いて理解することは比較的保たれる一方、話すことがうまくできず、ぎこちない話し方になるタイプ。しばしば右手足の麻痺を伴う。重度であれば声を出すことすら困難なこともあるが、ことばを理解するということにおいては日常生活に大きな支障はない人が多く、「分かっているのに話せない」。

(ブローカ失語の人との会話例)
「これはなんですか?」
「これ・・・は・・・ペン・・・です。」

「ウェルニッケ失語(感覚性失語)」
脳の比較的後ろの部分に障害が起きると、なめらかに話せるものの、錯語(言い誤り)が多く、聞いて理解することも困難なタイプ。麻痺を伴わない人も少なくない。そのため、失語症であると理解されにくいタイプであり、一見障害がないようでも会話をすると「話を聞かない人」や「おかしな人」と誤解されることが多い。

(ウェルニッケ失語の人との会話例)
「これはなんですか?」
「あのテレビご飯食べています。」(←「これはペンです。」という意味)

「健忘失語」
聞いて理解することはできるが、喚語困難(ことばをど忘れすること)が多くみられ、特に名詞を思い出すことが困難で回りくどい話し方になるタイプ。ことばの理解については一般的に症状が軽く、日常生活で困ることは少ない。


(健忘失語の人との会話例)
「これはなんですか?」
「これは・・・えっと・・・その・・・えっと・・・。」

「全失語」
「聞く・話す・読む・書く」のすべての言語機能に重度の障害が起きるタイプ。多くの人は右の手足の麻痺も伴い、日常生活にも介助が必要で、話し言葉は声を出すこと自体困難な人も多い。また、同じ音やことばを繰り返す人も、残語(言葉を話そうとすると決まった言葉が出てくる)が話せる人もいるが、どちらの場合も自分の言いたいことを伝えるのは困難である。しかし、その場の状況である程度の理解は可能であり、手振り身振りで適切な意思表示ができる場合もある

(残語のある全失語の人との会話例)
「これはなんですか?」
「なるほど、なるほど。」

聴覚障害
伝音性難聴・・・外耳、中耳の障害により音が伝わりにくくなる難聴
感音性難聴・・・内耳、聴神経、脳の障害による難聴(老人性難聴も感音性難聴の一種)。音が歪んだり響いたりしていて、言葉の明瞭度が悪くなる難聴
混合性難聴・・・伝音性難聴と感音性難聴の両方の原因をもつ難聴

*視覚障害
視覚障害にも全盲、明るすぎる状態(羞明)、暗すぎる状態(夜盲)、中心部分しか見えない状態(狭窄)、一部しか見えない状態(欠損)、視野に見えない部分がある状態(暗転)など様々な症状がある。

*知的障害(ダウン症など)によるもの
話の内容を理解できなかったり、自分の考えや気持ちを表現することが難しい、複雑な話や抽象的な概念などの理解が難しい。

*発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動障害など)によるもの
話の内容を理解できなかったり、自分の考えや気持ちを表現することが難しい、口話による理解が難しく、イラストなどを通じてのコミュニケーションの方がスムーズ。

*精神障害(統合失調症、気分障害)によるもの
幻覚や妄想などの症状がある、人と対面することや対人関係が苦手など。

・様々なコミュニケーションエイド

*概要
コミュニケーションを取るために、代替手段となったりその補助をするために用いられる福祉用具や福祉機器のこと。
電話機に文字変換装置がついている機器や、パソコンに音声変換装置がついている機器などがある。
また、電子機器だけでなくアナログな方法もいくつもあり、利用者の希望とその状況に応じて最適な選択をする必要がある。

コミュニケーションエイドの種類
「すばやい会話が求められる際に利用する機器」(買い物をする時など)としては音声出力付きのコミュニケーションエイドがあり、携帯型であるため移動先や外出先などでも利用される。
「時間を気にすることなく自らの考えをまとめる際の機器」(日記や手紙を書く時など)としては、市販のパソコンと組み合わせて利用することが多い。

*アナログな方法(一例)
下記のような文字盤を用いる方法では、「利用者自身が文字を直接指で指し示す」、「文字を介護者が順に指し示し、利用者の合図(うなづきやまばたきなど)により文字を特定する」、「アイコンタクトと呼ばれる方法で、利用者の文字を追う視線の動きを読みとる」といった方法がある。
文字盤の種類も様々で、利用者に合った文字盤と方法を選ぶ必要がある。



他には読唇術と呼ばれる唇の動きで意思を読み取る方法や、問いかけにたいしてイエスあるいは ノーをまばたきなどで合図する方法などがある。

*アイコンタクトでの文字盤使用手順
1:ボードの持ち手は、伝えたい方が文字を見つけるまでじっと待つ。
2:視線が止まったら視線と目が合うようにゆっくりボードを動かしていく。
3:相手と目が合ったことを確認後、自らの視線と相手の視線の間にある文字が伝えたい文字ということ。
4:次の言葉を見つけやすいようにボードを定位置(真ん中)に戻し、手順を繰り返す。
ポイント
・ボードをなるべく利用者の顔に近づける
・ボードを利用者が見やすい位置に合わせる


「コミュニケーションの技術に関する講義」のテキストはこれで終わりとなります。
貴重な時間を割き、最後までお読み下さいましてありがとうございました。

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