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重度の肢体不自由者の地域生活等に関する講義 テキスト

重度の肢体不自由者の地域生活等に関する講義



福祉関係の法令の歴史

・戦前~1970年代

戦前の日本では、障害者は救貧の対象、もしくは治安・取締りの対象でしかなく、前提は家族による保護であった。戦後になると、日本国憲法で福祉が位置付けられ、福祉三法(生活保護法、児童福祉法、身体障害者福祉法)が制定された。だが、経済的自立可能性を目的としていたこと、障害等級を設け制限を行ったこと、訓練主義的要素を重視したこと、保護主義的であったことという問題もあった。その後1970年代に入り、心身障害者対策基本法(1970)が制定されるが、発生の予防や施設収容などの保護に力点を置くものであり、精神障害者は除外されていた。これらは60年代からみられていた知的障害者などの入所施設の増加や、精神病床の急増といった、ノーマライゼーションの思想や脱施設化といった世界的動向に逆行するものであった。また、障害児の全員就学体制が整えられた反面、世界的には同時期に開始されていた統合教育とは異なる原則分離の教育形態が障害児教育の基盤となった。

1980年代~1990年代中頃

1980年代に入ると、国際障害者年(1981)、障害者に関する世界行動計画(1982)、国連・障害者の十年(19831992)という国連での「完全参加と平等」をテーマとした一連の動向があり、日本の障害者施策に影響を与えた。国民年金法の改正(1985)による障害年金の充実が図られ、身体障害者雇用促進法が知的障害者も対象とする障害者雇用促進法(1987)に改定された。精神障害分野では、看護職員らによる精神障害者の虐待死事件をきっかけに国際的な問題となり、精神保健法(1987)が成立した。そしてノーマライゼーションの理念が普及したことで、施設入所中心の施策から地域福祉を推進する施策への転換が行われ、1990年にはいわゆる福祉八法が改正された。
*福祉八法:身体障害福祉法、精神薄弱者福祉法(現:知的障害者福祉法)、児童福祉法、母子及び寡婦福祉法、老人福祉法、老人保健法(:高齢者の医療の確保に関する法律)、社会福祉事業法(現:社会福祉法)、社会福祉・医療事業団法(現:独立行政法人福祉医療機構法)のこと
この福祉八法改正によって、身体障害者福祉法や知的障害者福祉法に在宅福祉サービスが法定化されるとともに、地方分権化が図られ、市町村に各種の福祉サービスの措置権限を分野別に階段的に移行する方向が打ち出された。心身障害者対策基本法も障害者基本法(1993)に改定されて精神障害も障害として位置づけられ、その流れの元に精神保健法が自立と社会参加促進を目的に取り入れた精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律(略称:精神保健福祉法、1995)に改定された。さらに、難病患者等居宅生活支援事業(1997)の開始により、地域における難病患者等の自立と社会参加の促進も図られるようになった。また、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(略称:ハートビル法、1994)が制定されたことで、地域生活の基盤整備も進められた。この時期は、地域福祉に向けた一定の施策が進んだ重要な時期であった。
一方で、児童の一般的権利としての意見表明権や、独立した監視機関の必要性を規定している児童の権利に関する条約(略称:子どもの権利条約)1994年に締結しながらも、これを明文化する国内法は整備されなかった。また、可能な限り統合された環境での教育が保障されるべきであると明記されているが、原則分離の教育形態が維持された。日本に対しては国連児童の権利委員会から1998年と2004年に、児童の一般的権利の確保とともに、障害のある児童のデータ収集のシステムの発展と、更なる統合の促進を勧告されている。

 1990年代後半から現在まで

2004年には、「障害者基本法」が改正され、理念として差別禁止を明文化し、都道府県と市町村の障害者計画の策定が義務化された。国連では、法的な拘束力のある条約として障害者権利条約が2006年に採択され、日本は2007年に署名を行ったが、批准をしたのは2014年となっている。
地域生活の基盤整備の流れを受けて、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(略称:交通バリアフリー法、2000)、補助犬を使う身体障害者の自立と社会参加を促進する身体障害者補助犬法(2002)が制定され、さらにハートビル法と交通バリアフリー法を統合化した高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(略称:バリアフリー新法、2006)が制定されるなど、建物の利用や交通移動の面での施策が一層進んだ。
また、1998年に精神障害者の親が自傷他害防止の監督義務を怠ったとして1億円の損害賠償を命じられたことで精神保健福祉法が改定され(1999)、自傷他害防止の監督義務が法文から削除された。このように、今なお日本の障害者に対する介護は家族中心であり、福祉・教育・医療を含む生活全般を家族に依存しており、家族に対する重い負担と、障害者に対する重大な人権侵害となっている。
1997年~2000年にかけては社会福祉基礎構造改革という一連の改革が行われ、社会福祉の量の拡大、社会福祉の質の向上、福祉援助を受ける立場の人の権利確保という課題に対しそれぞれ、社会福祉事業の性格に応じ経営主体の範囲に関する規制の見直し(営利団体を含めた多様な経営主体の導入)、透明性の確保(情報公開と専門的な第三者によるサービスの評価)、個人が自らサービスを選択し提供者との契約により利用する制度(措置から契約へという変更による利用者本位のサービス)が目指された。
その結果、措置制度から契約制度への転換を目的に支援費制度(2003)が施行された。利用者の自己決定と選択の重視、利用者を中心にしたサービスの提供、利用者と事業者の対等な関係、契約に基づいたサービス利用、利用者の選択とサービスの質の向上といった目的に対し、支援費制度の施行後、在宅サービスの利用数の増加、障害種別のサービス格差、サービス水準の地域格差、在宅サービス予算の増加と財源問題などの課題が生じた。そこで、障害者自立支援法が2005年に成立し、2006年から施行された。3分野の障害施策の一元化、これまでのサービス体系の再編と新たなサービス体系の創出、就労支援施策の強化、市町村によるサービス支給決定の明確化、定率(応益)の利用者負担原則の確立といった特徴がある。だが、障害程度区分、サービスメニュー、利用者負担、介護保険との統合などを巡って多くの問題点が指摘され、全国的な反対運動が起こった。そのため、障害者総合支援法が2012年に成立、2013年から施行され、障害者の定義に「治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が厚生労働大臣が定める程度である者」が追加された。また、2014年からは重度訪問介護の対象者の拡大、ケアホームのグループホームへの一元化などが実施された。

以上に加え、この時期には障害者に対する施策の上で重大な枠組みの変更がいくつかなされた。
まず、2001年に池田小学校事件を契機として提案された、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)2003年に成立し、2005年に施行された。専門的な治療、退院後の継続的な治療などを通して社会復帰を促進するための法律であるが、これについても反対運動が続いている。
また、従来は必ずしも障害の定義に入っていなかった自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害等の発達障害を有する者に対する援助等を定めた発達障害者支援法(2004)が成立した。その後、2010年の障害者自立支援法の改正において、発達障害が障害者自立支援法の対象となることが明確化され、2011年の障害者基本法改正では障害者の定義が変更され、それまでの「身体障害、知的障害又は精神障害がある者」から「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者」となった。
他に高次脳機能障害に対する社会的関心が高まり、2001年から5年間にわたり、高次脳機能障害支援モデル事業が実施され、2006年から高次脳機能障害支援事業が行われている。
さらに、2006年には学校教育法が改正され、盲学校、ろう学校及び養護学校が特別支援学校に一本化され、特別支援教育の推進が行われる一方、原則分離の教育形態に変更は加えられていない。
また、措置から契約への流れの中で、契約という法律行為を支援する方策の制定も必須となり、2000年の介護保険法と同時に成年後見制度が施行された。認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な方々を保護し,支援するための制度であり、介護保険制度と成年後見制度は「車の両輪」と呼ばれる。


関連法令の知識

・「心身障害者対策基本法」(1970)

*障害者の定義
「肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、平衡機能障害、音声機能障害若しくは言語機能障害、心臓機能障害、呼吸器機能障害等の固定的臓器機能障害又は精神薄弱等の精神的欠陥があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」
*概要
それまでは心身障害者対策に関連ある法律の実施がバラバラに行われていたため、総合性、一貫性がなかった。そこで対策の基本理念を明らかにし、施策間の調整を図ることで対策の効果的推進を図る目的で基本法が制定された。だが、実際の障害者福祉は、身体・知的・精神の障害ごとに別々の行政組織が担当しており、施設の運営などもそれぞれの基準があった。また、発生の予防や施設収容などの保護に力点を置くものであった。また、精神障害者は除外されたままであった。

 ・「障害者基本法」(1993)

障害者に対する障害者を含む国民の理解が広まったことで、障害者全体を対象とした総合的な施策への発展が目指された。成立した時の1993年版、2004年の改正版、2011年の改正版と、現時点までに3種ある。改正される毎に「障害者」の定義が変更されている。

(1993
年版)
*障害者の定義
「身体障害、精神薄弱又は精神障害があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」
「心身障害者」を「障害者」に変更。障害別の列挙から身体障害、精神薄弱、精神障害の3障害とした。精神障害を障害と位置付けた。
*概要
障害者の定義の変更(上記)
障害者の自立と社会参加の促進を規定し、「完全参加と平等」をめざすことを明記。
基本理念として「社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする」とした。
129日を障害者の日とする。
国は障害者基本計画の策定義務、都道府県と市町村は障害者計画の策定努力義務を明記。

(2004
年改正版)
「障害者の日」(129日)を「障害者週間」(123日から9日まで)に改める。法律の目的、障害者の定義、基本的理念など、大幅に改正された。本改正によって、33項として「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」ことが追加。
*障害者の定義
「精神薄弱」が「知的障害」に、「長期にわたり」が「継続的に」へ変更。
1993年版からの変更点
障害者の定義の変更(上記)
「差別禁止」の理念の明示
障害者週間(123日から9日まで)の設置
都道府県及び市町村の障害者計画の策定について努力義務規定を義務規定に変更
難病等の調査研究の推進することを規定

(2011年改正版)
障害者権利条約の批准のため、国内法整備の一環として改正された。
*障害者の定義
「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者」
2004年改正版からの変更点
障害者の定義の変更(上記)
あらゆる分野の活動に参加する機会の確保
地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと
医療、介護、療育を「身近な場所」で
選挙、司法手続などにおける配慮(投票所の施設や設備の整備、意思疎通手段の確保や職員の研修など)

・「支援費法」(2003)

身体障害者福祉法・知的障害者福祉法・児童福祉法に準じて居宅サービス、施設サービスを利用できる制度。市町村から情報提供や相談支援、支援費の支給を受け、事業者との契約に基づいてサービスを利用できる実務的な法律。措置制度から契約制度への移行、応能負担など利用者にとって多くのメリットがあった。
*問題点
「財源と事業所不足」
サービス利用者が国の想定以上に急激に増加したことで、予算の不足が深刻化した。初年度から補正予算を組む事態となり、存続が危ぶまれることになる。事業所に入る報酬も当初より大幅に減額され、採算がとれなくなった事業所の撤退も相次ぎ、事業所不足を招いた。
「地域格差」
地方自治体による差が激しく、必要とする人々すべてにサービスが行き届いていなかった。また、利用者支給決定のプロセスが不透明であり、全国共通の判断基準に基づいたサービス利用手続きが規定されていなかった。
「障害種別による問題」
精神障害、特定疾患(難病)、高次機能障害といった疾患および障害については支援費制度の対象外であり、対象の障害種別もサービス体系が異なり利用しづらかった。
「教育、就労」
利用者がサービスを利用する際に学校や職場内での利用が出来ず、支援が不十分だった。

・「障害者自立支援法」(2005年成立、2006年施行)

従来の支援費制度に代わる、障害福祉サービスに関する給付やその他の支援を行うための実務的な法律。
1:障害者の福祉サービスを「一元化」
サービス提供主体を市町村に一元化。障害者の自立支援を目的に3障害共通の福祉サービスを、共通の制度により一元化。
2:障害者がもっと「働ける社会」に
一般就労へ移行することを目的とした事業を創設。
3:地域の限られた社会資源を活用できるよう「規制緩和」
市町村が地域の実情に応じて障害者福祉に取り組めるように、空き教室や空き店舗の活用も視野に入れて規制を緩和。
4:公平なサービス利用のための「手続きや基準の透明化、明確化」
公平にサービスを受けられるように、利用に関する手続きや基準を統一。
5:増大する福祉サービス等の費用を皆で負担し支え合う仕組みの強化
利用したサービスの量や所得に応じた公平な利用者負担を求める(応能負担から応益負担)。福祉サービス等の費用について、国が義務的に負担する。

主な問題点
*支援費法の応能負担(本人の支払い能力、収入などに応じて負担してもらう)が応益負担(本人の利用したサービスの量に応じて負担してもらう)に変わったことで、障害が重い障害者ほど、サービスを受けると結果として受けたサービス分(1割負担)を支払わなければならない。そのため、サービス負担費用の1割を払うお金がないからサービスが受けられない、支払えないから施設に来ない、支払えないから生活保護の申請をするといった、「障害者の自立」という法の趣旨から外れる事態を引き起こした。
*サービスの内容を決める区分判定審査の調査項目が介護保険の要介護認定と同様であったため(要介護認定はその性格上、身体的な障害に重きが置かれて作られていた)、知的障害や精神障害などの区分判定が実情と異なる事態(一応自力でできるが、見守りが不可欠な知的障害や精神障害は軽く認定されやすい)を招いた。また、精神障害者だけは高速バス・航空機利用の割引適用除外だった。
*市町村により財政状況が異なるため、福祉サービスの一元化といっても実際は市町村によってサービスの違いがあった。
*障害者の対象に発達障害が明記されておらず、市町村によっては運用が徹底されていなかった。(2010年に自立支援法が改正され、条文に明記された。)

 ・「障害者総合支援法」(2012年成立、2013年施行)

正式名称は「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」。障害者自立支援法を廃止し、それに代わる実務的な法律。障害者自立支援法から理念・目的が変更となったが、法文や骨格は変わっていない。

主な変更点
*基本理念が新たに明記され、法律の目的が「自立した日常生活又は社会生活」から「基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活」となった。
*障害者の定義に難病などが加わり、いわゆる「制度の谷間」とされていた難病患者が従来の難病患者等居宅生活支援事業以外のサービスを受けられるようになった。
20144月から、障害程度区分が障害支援区分へ変更となった。知的障害や精神障害の特性に応じて判定を適切に行うために、介護保険の要介護認定と異なる判定式を構築した。
20144月から、身体障害に限定されていた重度訪問介護に知的障害、精神障害が加わり、対象が拡大された。
20144月から、ケアホーム(共同生活介護)とグループホーム(共同生活援助)がグループホームに一本化された。

問題点
重度訪問介護の対象が拡大されたものの、「行動援護」のサービス対象者を基準にしており、症状・状態が重くなるほど(問題行動の頻度が増えるなど)利用できるため、症状・状態が軽いうちに問題行動が起きないようにするための支援ができない。
「行動援護」の対象者は、行動上著しい困難を有する知的・精神障害者。行動に関する12の調査項目のうち、8点以上(24点中)にあてはまるのが条件。例えば、「他人に突然抱きついたり、断りもなく物を持ってくること」が、「ほぼ毎日ある」と2点。「叩いたり蹴ったり器物を壊したりなどの行為が」「ほぼ毎日ある」とさらに2点、こうした点数を組み合わせ、8点以上でサービスの利用ができる。

重要語句

・「ADL(日常生活動作)Activites of daily living(直訳:日常生活のいろいろな動作)

文化や社会の違いに関係なく、生活するために人間が行う必要不可欠な基本的身体動作・基本的行動のことで、リハビリテーションや介護の分野で頻繁に使われている用語。具体的には食事、排泄、洗面、整容、更衣、入浴、移動などのこと。
また、似たような言葉にIADLInstrumental Activity of Daily Living)があり、こちらは手段的日常生活動作と訳され、日常生活を送る上で必要な動作のうち、ADLより複雑で高次な動作のこと。具体的には買い物や洗濯、掃除といった家事全般や、金銭管理や服薬管理、趣味のための活動など。
それぞれの動作・行動について、自立・一部介助・全介助といった評価をすることで、障害者や高齢者の生活自立度を表現することができ、そのようなテスト表は80種以上ある。
ADLは個人が能力を回復するだけでなく、装具の使用やヘルパーの支援などを活用することでも向上させることができる。
また、最近ではADLを日常生活活動と訳すことも多い。そして、従来はADLIADLを「できる」「できない」で評価していたが、「している」「していない」での評価も重要とされている。

・「QOL(生活の質、生命の質、人生の質)Quality of Life(直訳:生活の質)

人がどれだけ自分らしく満足した生活をしているか、人生に幸福を見出しているかを評価する概念のこと。その人がどんなことに幸せを感じるか、その人が大切にしているものは何かといった要素が大きく関わっている。
また、生活を量ではなく質としてとらえるため、客観的な評価が可能なADLと異なり、主観的な要素が多いQOLは客観的な尺度で表すのは難しい。
従来の福祉の考え方ではADLを向上させることが目標とされていたが、今日ではADLの向上よりもQOLの向上を目標にすべきという考え方が主流になっている。
ただし、QOLADLの概念は対立的なものではなく、一般的にADLが高いほどQOLも高くなる傾向もあるなど、相互に密接に関わっているものである。

・「ノーマライゼーション」(直訳:正常化、標準化)

障害のある人も障害のない人も特別に区別されることなく、同等に生活し活動することが正常なことであり、望ましい社会であるという考え方・理念のこと。
従来、障害者は施設での生活を余儀なくされており、その意志が尊重されることはほとんどなかった。そこで、「障害者を排除するのではなく、障害を持っていても健常者と均等に当たり前に生活できるような社会こそがノーマルな社会である」という考え方が提唱され、世界中でノーマライゼーションの理念・運動が広がった。この考えを具現化したものがバリアフリーやユニバーサルデザインである。
ノーマライゼーションには、1日のノーマルなリズム・1週間のノーマルなリズム・1年間のノーマルなリズム・ライフサイクルでのノーマルな経験・ノーマルな要求の尊重・異性との生活・ノーマルな生活水準・ノーマルな環境水準という8つの原理がある。
注意点として、ノーマライゼーションは障害者に普通を強要するものではない。普通な生活を選択する機会があることを含めてのノーマルであり、普通な生活が可能となる支援・機会が提供されている社会において、普通な生活を選択しないこともまたノーマルである。
また、障害のない人はヘルパーのような福祉サービスを受けられないのに、障害のある人だけが特別なサービスを受けることはノーマルではないという考えもノーマライゼーションではない。普通な生活を送ることが可能となることがノーマルであり、そのために必要な様々なサービスや支援を提供することがノーマライゼーションであり、必要としている特別なサービスを求めることである。

・「バリアフリー」

障害者や高齢者などの社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁を除去するための施策のこと。また、具体的にそれらが除去された状態のこと。
バリアフリーとは和製英語であり、英語のバリアフリー(barrier free)は建物の段差を取り除くことなどのみをさすが、日本で使用されているバリアフリーという用語はもっと広い意味であり、英語ではアクセシビリティ(accessibility)のことである。

・「ユニバーサルデザイン」

バリアフリーが障壁の除去であるのに対し、年齢や性別、人種や国籍、障害の有無とは関係なくすべての人が利用することができる施設や製品、すべての人が利用しやすいように都市や生活環境をデザインするという考え方。
デザイン対象を障害者や高齢者に限定していない点が、バリアフリーとは異なる。一般的にはバリアフリーを一歩進めた考え方がユニバーサルデザインとされ、広い意味ではユニバーサルデザインにバリアフリーが含まれる場合もある。いま存在している障壁に対してはバリアフリー、これから作るものに対してはユニバーサルデザインという相互関係がある。
建物の玄関先を例にすると、玄関先の段差にスロープを後から設置することはバリアフリーであり、初めから段差を作らないように建物を設計することがユニバーサルデザインである。

・「リハビリテーション」

身体的・精神的・社会的に最も適した生活水準の達成を可能とすることでライフステージのすべての段階において「全人間的復権」を目指す、時間を限定した過程のこと。
能力低下やその状態を改善し、社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含んでおり、環境に適応するための訓練を行うばかりでなく、環境や社会に手を加えることも目的とする。
病院などの医療機関で行われる医学的リハビリテーション、就労を目的とした地域障害者職業センターなどでの職業的リハビリテーション、養護学校などでの教育的リハビリテーション、各リハビリテーションの土台となる社会的リハビリテーション、地域において様々な人々がリハビリテーションの立場から協力し合って行なう地域リハビリテーションなどに細分化される。
介護の分野では、心理的に自立を促す心理的リハビリテーションや、全てを介護するのではなくできることはできるだけ自分で行なってもらい、身体的リハビリテーションで練習している動作や行為、その内容を把握して自立を促す介護をするリハビリテーション介護などが関わってくる。

・「エンパワメント」

個人や集団が、より力をもち、自分たちに影響を及ぼす事柄を自分自身でコントロールできるようになること。人は誰しも力を持っているが、様々な理由によりそれを発揮できない状況になっている場合において、本人の意向にそって、個々が有する能力の向上・社会環境の改善・個人と社会環境との調整などを通してそれを改善していく諸過程。
介護福祉においては、障害を持った方あるいはその家族がより内発的な力を持ち、自らの生活を自らコントロールできること、または自立する力を得ること。当事者にとっては専門職にやってもらうのではなく、あくまでも自分自身が知識や技術をもち、自分で問題解決する能力をもつということが強調される。専門職はサービス利用者のパートナーとして働くことが強調され、サービス利用者は保護され指導される対象ではなく、自分の人生についての「専門家」であるという理念に立つ。
エンパワメントの原則は、以下の8原則。
*「目標を当事者が選択する」
*「主導権と決定権を当事者が持つ」
*「問題点と解決策を当事者が考える」
*「新たな学びと、より力をつける機会として当事者が失敗や成功を分析する」
*「行動変容のために内的な強化因子を当事者と専門職の両者で発見し、それを増強する」
*「問題解決の過程に当事者の参加を促し、個人の責任を高める」
*「問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる」
*「当事者のウェルビーイングに対する意欲を高める」
(ウェルビーイング=個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念)

別項



・青い芝の会

「青い芝の会」とは、脳性まひの方の交流や生活訓練、社会への問題提起などを目的として作られ、過激な主張と社会運動で有名な団体である。
60年代~70年代にかけて介護を苦にした親が障害のあるわが子を絞殺した事件が起こり、それに対して世間は減刑や無罪放免を求めたが、逆に罪を罪として裁くよう求めたことで注目されるようになった。その主張としては、介護疲れなどを理由に減刑や無罪放免が認められるのならば、自分たちが介護者などに殺されても当然であるかのように受け止められかねないためである。それは障害者にとって生存権の危機であるとして、自分たちは健全者から「本来生まれるべきではない人間」と見られていると認識し、そのような健全者社会に対して「強烈な自己主張」を行うため過激な主張や行動が目立つようになった。1977年には、路線バスでの車いす障害者に対する乗車拒否が相次いだことに対しバスジャック事件を起こした。その結果、公共交通における障害者利用の問題に一石を投じた。


「重度の肢体不自由者の地域生活等に関する講義」のテキストはこれで終わりとなります。
貴重な時間を割き、最後までお読み下さいましてありがとうございました。

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