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基礎的な介護技術に関する講義 テキスト

基礎的な介護技術に関する講義

◆ボディメカニクスと腰痛予防

・ボディメカニクス

骨格・筋肉・内臓などを中心とした身体の動きのメカニズムの相互関係、またはそれらを活用した技術のこと。身体介護の身体的な負担を軽減し、双方にとって安全かつ安楽な動作が可能となる。基本的な原則には捉え方によって5原則・7原則・8原則とある。以下、その中から7原則を取り上げる。原則数の違いはあるが、いずれも力のモーメント(てこの原理)、重心、摩擦力、慣性力といった力学的原則が活用されている。

  1. 支持基底面面積を広くする
  2. 重心の位置を適度に低くする
  3. 重心の移動をスムーズにする
  4. 重心を近づける
  5. てこの原理を使う
  6. 身体を小さくまとめる
  7. 大きな筋肉群を使う

・「支持基底面面積を広くする」

支持基底面とは物体の重心を支えている面のこと。
介護の現場での実用例→移乗介護をする際、足の幅を適度に広げ体勢を安定させる

支持基底面の中に重心があると、体勢が安定する
支持基底面が広いと重心を動かせる範囲が広がるので安定しやすい。支持基底面から重心が外れると物体はバランスを崩して転がってしまう。身体介護の中での支持基底面とは足を広げている面のことを指し、例を挙げると片手をつくと手足を結ぶ三角形、両手をついた時は手足を結ぶ四角形が支持基底面となる。

*重心の移動に適したかたちに足を広げるのが良い
足を左右や前後、ななめに大きく広げると支持基底面は広がるが、足を延ばしていない方向に重心を移動させると不安定になる。そこで、不安定にならないよう、を伸ばしている方向に重心を動かす。介護の現場でも移乗介護をする際、足の幅を適度に適切なかたちに広げ、安定を保ちながら介助を行う。

・「重心の位置を適度に低くする」

重心を適度に低くすると体勢が安定し、力を出しやすくなる。支持基底面責を広くするために足を広げることで自然と重心は下がり、それに加えてひざを曲げて適度に腰を落とすと良い。
介護の現場での実用例→移乗介護の際、重心を低くすると体勢が安定し、力も出やすい

・「重心の移動をスムーズにする」

人の動作の自然な動きと重心の動きを理解することで、お互いに楽な介助が出来るようになる。
介護の現場での実用例→椅子からの立ち上がりの介助などで、要介護者とタイミングや動きを合わせて、自然な動きや体重移動をしてもらう
例えば、椅子から立ち上がるときの頭が動く軌道は下記の動画のようになっている。


このように、頭を前に深く沈めることで、自身の重心を自分の足の上に持ってきて立ち上がっている。

移乗の介護をする時に、これを踏まえて要介護者になるべく同じ軌道で立ち上がってもらえるようにすると、要介護者が自身の筋力で立ち上がりやすくなる。
逆に、頭を前に深く沈めて自身の重心を自分の足の上に持ってくることをせずに要介護者を立ち上がらせようとすると、介護者は非常に強い力が必要になり負担が大きくなる。

それと同時に大切なのは、要介護者との協力が必要な介助を行う場合は、事前に内容を理解してもらうことや掛け声等によってタイミングを合わせること。これは、重心を動かすタイミングや動かす方向などが合わないとそれぞれが思っているような動きにならず、時にはバランスを崩して転倒してしまう等の事故などにもつながる可能性もあるため。
要介護者との協力が必要な介助を行う場合は、介助内容とタイミングなどを事前に簡単に打ち合わせられるようにしておく。

・「重心を近づける」

重いものを持ち上げて移動させるときは、両足を開いて支持基底面を広くとり、出来る限り体に寄せて持ち上げるのが楽に持ち上げる方法。
介護の現場での実用例→移乗介護の際、要介護者と介護者の重心を近づけて行う
このことは、身近な重たいものを体に近づけたり離したりして持ち上げてみると理解しやすい。(下記動画参照)


また、バランスも重心を近づけたほうが安定しやすい。重量物を持ち上げて運ぶ際、重量物と自身の重心が支持基底面の中心に近いほど、バランスは安定し身体的負担も少ない。

その他にも、重心が遠くにある状態で重いものを抱えることは腰を痛めやすい。
腰痛の一番の原因は前傾中腰の姿勢であり、前傾中腰の状謡で腰に強い負荷をかけることや、その姿勢を長時間続けることには注意が必要である。

・「てこの原理を使う」

支点から作用点を長くすることによって、同じものをより小さな力で動かせるようになること。
介護の現場での実用例→仰臥位で体位交換をする際など、要介護者のひざを立ててそのひざの先端を動かして体位交換を行うと少ない力で体を動かすことが出来る(下記動画参照)



このように、回転をする中心から離れているところを押す方が、少ない力で回転させることができる。

・「身体を小さくまとめる」

身体を小さくまとめ(両手、両足を組むなど)、接地面積を少なくすることで摩擦を低減する。また、重心が安定しやすくなる。
介護の現場での実用例→ベッド上で寝ている状態から端座位になる際などは、身体を小さくまとめてお尻だけがベッドについている状態にすると、摩擦が低減されお互いに負担が少ない。
下記の仰臥位から端座位への体位変換の動画のように、滑るような動作をする際には接地面積が少ない方が摩擦が少なく、介護者にかかる負荷が少ない。




また、身体を小さくまとめたほうが重心も安定しやすい。例えばお姫様抱っこをする場合、大の字の姿勢の人をお姫様抱っこをする場合と、手足や腰を曲げて小さくなるような姿勢でお姫様抱っこをする場合では安定感が違う。

・「大きな筋肉群を使う」

大きな筋肉群を使うことによって大きな力が出せる。また、小さな筋肉群を使って無理な力を出そうとすると、比較的痛めやすい。
介護の現場での実用例→持ち上げる動作は手先の力などではなく、出来る限り体を近づけて、スクワットのようにして持ち上げるなど。

大きな筋肉は大きな力を出すことが出来る上に、疲労しづらいという特性を持っている。(大きな筋群とは、大胸筋、後背筋、大腿四頭筋、腹直筋、大殿筋、脊柱起立筋のことを指す。)


代表的な例としては、重たいものを持ち上げる時は出来る限り体を近づけて、太ももの筋肉を意識的につかってスクワットのようにして持ち上げるなどするのが良い。(「重心を近づける」での動画を再度参照。下記に再掲載。)

また、寝ている人を移動する際には手先の力でなく、肘まで体の下に入れてほぼ介護者の体重移動だけで移動するやり方でやると楽である。(下記動画参照)

その他に気を付けるべき点としては、手先の力を使ったり、身体をねじったような状態では大きな力を出しづらく、身体も痛めやすい。


・腰痛予防

介護の仕事を長く無理なく続けるためには腰痛に十分注意する必要がある。

「重いものを持ち上げる(下ろす時も)ときは、重いものを自分に出来る限り引き寄せて、太ももの筋肉を使って持ち上げる。」
大きな筋肉は大きな力を出しやすく、傷めづらいが、手を横に伸ばしたまま腕力で重いものを持ち上げるなど、腹筋、背筋で持ち上げるような動作を行うと身体を傷めやすい。


「腰がつらくなる作業のときの姿勢を変える」
前傾で中腰の姿勢を長く保つ必要があったり、前傾の中腰で重いものを持ったりすると、腰痛を引き起こしやすい。そのため、その姿勢を改めると楽になる。
具体的な前傾の中腰の姿勢を変える方法としては下記の通り。
1:足を1歩前に出してみる
2:足を片方前に出してみる
3:腰を落としてみる
4:膝をついてみる
5:前にものがあればよっかかってみる
6:長時間であれば椅子を使わせてもらう

腰がつらくなる作業の中には、介護を受ける方の望まれる介助方法でやると、どうしても腰が痛くなってしまうこともある。
そのため、その介助方法で介助を続けることによって腰痛が慢性的なものになったり悪化してしまったりして、介護者がその方の介護に携われなくなってしまうこともある。
そのような場合には、その旨を介護を受けている方に伝えて、介護を受ける方、サービス提供責任者とよく相談をして介助方法を考えていく。

◆移乗介助

(以下、それぞれの動画を参照のこと)

ベッド上での側臥位にする動作


*ひざを立てて回転軸から遠いひざ先を動かして回転させることにより、てこの原理を活用する
*同時に肩を持って回転させ、上半身も同時に回転させる
*腕を動かすことが出来ない要介護者の場合、腕が下敷きになったり、無理な力が加わってしまわないよう注意すること

・ベッド上での左右の移動


手前に移動する場合
*介助者がベッドサイドにひざを当て、てこの原理を活用する
*移動させる箇所の下に腕を入れて、持ち上げるのではなく腰を落とし、腕を手前に滑らせるようにしてずらす

奥に移動する場合
*持ち上げるのが困難な場合はベッド上にヘルパーが膝をつき、重心を近づけることで大きな力を出しやすくなると同時に、介助者の身体的な負担を軽減することが出来る
*それでも困難な場合は、ビニール袋などを活用すると良い

・ベッド上での上体を起こす動作


*介助者の腕を肘まで利用者の背中上部に差し込み、ベッドサイドにかたひざをつく
*介助者は腕の力で引き上げるのではなく、ひざを軸に腰を落とす時の自分の体重を使って起こす

・ふんばる力がある方のベッド上方への移動の介助


*介助者が要介護者の上半身の重心を自分の重心に近づけることで、介助者は自身の大きな筋肉を使って大きな力が出しやすくなる
*要介護者の上半身を抱え、ひざを立たせることによって、摩擦面積を少なくして負担を軽減することが出来る

・ふんばる力がない方のベッド上方への移動の介助


*介助者が要介護者の上半身の重心を自分の重心に近づけることで、介助者は自身の大きな筋肉を使って大きな力が出しやすくなる
*要介護者の上半身を抱え、ひざを立たせることによって、摩擦面積を少なくして負担を軽減することが出来る

・ベッド上での上体を寝かせる動作

*要介護者によっては自身の体幹や首を自身の筋力で支えることが出来ない方もいるので、必要に応じて支えながらゆっくり寝かせること。

・座位⇔端座位の動作


*上半身と足を持ち上げてお尻だけが着いたお姫様抱っこのような状態にし、お尻を軸に回転すると摩擦が少ない


・移乗のポイント


*一般的な立ち上がりの動作を利用者が出来るように介助すると自然な立ち上がりをさせることが出来る
*利用者の頭の軌道が赤矢印のようになると良い


・車いすからベッドの移乗


*利用者の足に利用者の体重が乗るようにする。
*腰の位置が浅くなってしまった時は、ずり落ちないように注意が必要。落ちないように肩などを支えながら、素早く後ろに回り上体を持ち上げて座り直しを行う。

リフト移乗 ベッドから車いす


※移乗用ネットの脱落が大事故につながる


*リフトを昇降させる前に、移乗用ネットが正しくリフトに取り付けられているかを確認すること。
*昇降時はリフトから目を離さないこと。

リフト移乗 車いすからベッド



移乗用ネットの脱落が大事故につながる


*リフトを昇降させる前に、移乗用ネットが正しくリフトに取り付けられているかを確認すること。
*昇降時はリフトから目を離さないこと。


・安楽の姿勢と体位交換

寝返りに介助が必要な利用者の場合、関節の拘縮、褥瘡の予防のために体位交換をして安楽の姿勢を作る必要がある。
*首、胴、腰などの捻れと傾きをなくす。
*体とマットレスの間に隙間を作らない。
*マットやクッションは、柔らかすぎるものを使用しない。
*出来るだけ腰が反らないように。肩甲骨は外側へ、頸部は軽度屈曲位に。
*体位交換の頻度は皮膚の状態によって2~4時間に1度程。

◆更衣介助

更衣介助における留意点

*生理的な動作を補助することを心がける
自然な着替えの動きをしてもらえるようにすること。それによって、介助を受ける人に負担なくスムーズに着替えてもらうことが出来る。自分が着替える時の動作を自分で注意深く観察し、それを参考にすると良い。

*室温
動いている人と動いていない人では気温の感じ方が異なるため、寒い時期は室温(23~25度が適温)に気を付ける。介助者は動いているので体温が上がっているが、要介護者は動いていないので体温が低いため、要介護者が寒いと感じていても介助者がそれに気が付かないことがある。

*プライバシー、羞恥心への配慮
出来る限りプライバシーを守り羞恥心を感じさせないように、カーテンを閉めたりタオルをかけたり肌をさらす時間が短くなるような段取りをするといった配慮をする。

・更衣介助の基本

*迎え袖
袖先から介助者が手を入れて要介護者の手足の指先を介助者の手で包み込むように持って袖を通す方法

*脱健着患
体の左右どちらかの片側にマヒや関節の可動範囲に制限がある要介護者の更衣介助を行う際に、健側から脱ぎ患側から着るという原則


(以下、それぞれの動画を参照のこと)

・座位での前開き上着の着衣





*片腕ずつ迎え袖をして通していく。
*腕やひじの動かし方は自身で同じ動作を行い、その生理的動作を参考にすると自然な動きが可能となる。
*服のねじれ等を直す際は、服の縫い目の位置を参考にするとねじれをきれいに直せる。

座位での前開き上着の脱衣



*服を両肩から外し、着衣に余裕を作る。
*片側のひじ、腕を抜き、反対側のひじ、腕を抜く。


座位での前開き上着の着衣(片麻痺)



*脱健着患の法則に従い、患側から通していく。
*麻痺側に可動域の制限等があることを想定する。


座位での前開き上着の脱衣(片麻痺)




*脱健着患の法則に従い、健側から抜いていく。
*麻痺側の手の指などが引っかかってしまわないように、注意して手を抜いていく。
*麻痺側に可動域の制限等があることを想定する。


座位での前閉じ上着の着衣


*両腕を迎え袖で通し、ひじのあたりまで胴の部分をたくし上げる。
*顔がひっかからないように頭を通す。

座位での前閉じ上着の脱衣



(動画内のタイトルにある「(片麻痺)」という表記は誤記です。この動画は「座位での前閉じ上着の脱衣」となります。)

*服の胴の部分をたくし上げ、片側ずつ、肩、ひじの順番で抜いていく。
*顔がひっかからないように頭を抜いていく。

座位での前閉じ上着の着衣(片麻痺)



(動画内のタイトルは「座位での前閉じ上着の着衣」となっていますが、この動画は座位での前閉じ上着の着衣(片麻痺)」となります。)


*脱健着患の法則に従い、麻痺側の腕から迎え袖で通していく。
*頭が引っかからないように通していく。


座位での前閉じ上着の脱衣(片麻痺)



*脱健着患の法則に従い健側のひじから抜いていく。
*頭を抜く際、引っかからないように注意して抜く。
*麻痺の状態や身体の状態によっては腕からでも問題ないため、利用者に確認する。


座位での前閉じ上着の頭からの着衣



*更衣介助には様々な対応方法があり、ここで挙げているのは一例でしかない。先に挙げた「座位での前閉じ上着の着衣」以外に、このような対応方法もある。それら様々な対応方法を身に着けておくと、よりバリエーション豊かな対応が可能となる。
*頭、両腕の順で通していく。
*腕の動かし方などは自身で同じ動きを行い、その生理的動作を参考にすると自然な動きが可能となる。

ッド上でのズボンの着脱



着衣
*迎え袖で足が引っかからないように通す。
*てこの原理を活用して側臥位にしながらズボンを腰まで上げていく。
*最後に着衣のねじれなどを直す。
脱衣
*脱衣の際も臀部からズボンを下ろす際にてこの原理を活用する。

ベッド上での前開き上着の着衣


*利用者の上半身の動作は座位での着替えと同じで良く、それに体位交換をする動作が加わる。
迎え袖で指が引っかからないように通す。
*最後に着衣のねじれなどを直す。

ベッド上での前開き上着の脱衣



*利用者の上半身の動作は座位での着替えと同じで良く、それに体位交換をする動作が加わる。
*肘の抜き方にコツが必要となる。

ベッド上での前閉じ上着の着衣 


*迎え袖で両肘の上まで袖を通す。
*両肘が胴の上に来るようにして頭を通す。
*もっと肘が上に上がると頭を通しやすい。
*側臥位にして背中を下ろしていく。

ベッド上での前閉じ上着の脱衣



*肩の抜き方、肘の抜き方にコツが必要となる。
*関節に無理のない生理的な動作を心がける。
*顔に服が引っかからないようにする。

「基礎的な介護技術に関する講義」のテキストはこれで終わりとなります。
貴重な時間を割き、最後までお読み下さいましてありがとうございました。

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