まごころ介護公式サイトは下記のリンクへどうぞ

医療的ケアを必要とする重度訪問介護利用者の障害及び支援に関する講義 テキスト

医療的ケアを必要とする重度訪問介護利用者の障害及び支援に関する講義

◆食事介助

・食事介助の概要

食事は楽しみなことの一つであり、健康を維持するために必要不可欠な栄養を摂る手段でもある。そのため、美味しくて、楽しくて、満足してもらえる食事をしてもらえるよう心掛けなくてはならない。利用者の食欲を失ってしまうようなことは出来る限り避けるため、利用者一人一人の障害や嗜好を理解してその人らしい食事を目指す。

・調理時のポイント

*利用者の自立と自己決定
自立と自己決定には、調理の動作の自立という意味と、管理や意思決定を主体的に行うという意味がある。前者の意味では、ご自身で出来る作業はなるべくご自身で行って頂くように支援を行うことが必要であり、後者の意味では、食材の管理を行ってもらったり献立を決めてもらったりできるような支援をしていかなければならない。
具体的には、冷蔵庫の中身を利用者に報告し購入する食材を決めてもらう、その日の食事のメニューを決めてもらう、調理の一部を手伝ってもらうといった支援がある。

*食における満足とQOL
前述したように食事は栄養を補給するためだけのものではなく、生活の彩りの一つであり、香りや味わい、歯ごたえといった楽しみを与えてくれる。また、口で食べるという行為は様々な身体器官(特に脳)を刺激し活性化するものであり、生きているという喜びにつながる。満足のいく食事は、心理的な面からもQOL(生活の質)の維持、向上のために重要である。

*栄養面
身体をつくる元になるタンパク質や、身体の調子を整えるビタミンなどは取りすぎることのない程度に積極的に取ると良い。また、量やカロリーも配慮する必要がある。利用者によってはカロリーを消費する運動が出来ないため、炭水化物や脂肪を過剰摂取すると体脂肪として蓄積してしまい、体重や健康の維持が難しくなる。また、疾病によっては避けなければならない栄養素もあり、利用者の嗜好を理解すると同時に注意が必要となる。

*衛生管理
詳細は「緊急時の対応及び危険防止に関する講義」を参照のこと。まな板や包丁などの調理用具の衛生、調理前や調理中の手洗い、食材の管理など様々な衛生面に注意しなければならない。

・食事と姿勢

可能な限り、座位で食事をする。横になって食事をすると正しく飲みこみづらくなってしまい、また、寝たきりを防ぐ意味でも座位での食事を第一選択にする方が望ましい。座位が保てない方の場合、クッションや背もたれ、アームレストがついた椅子などで姿勢を保持する。ベッド上の場合は最低限30度の角度をつけた上で、側臥位が望ましい。また、体全体の位置や姿勢を工夫して、顎を引いた状態で食事が取れるようにすると誤嚥しづらい。

・嚥下と誤嚥

嚥下(えんげ)とは「飲み込むこと」を指す。その飲み込みが正常に行えなくなることを嚥下障害という。原因としては加齢などによる注意力の低下、障害による構造的な異常、飲み込みに必要な筋肉やそれを動かす神経の異常など。
また、食べ物などが誤って気管に入ってしまう状態を誤嚥(ごえん)という。食べ物が口から食道に飲みこまれる際に喉頭蓋が下に下りない、気管が閉じられないことによって気管に食べ物が入ってしまう。誤嚥には、意識して食べ物を飲み込もうとする前に、食べ物が入っていってしまう場合、食べ物を飲み込んだ時に食道ではなく気管に入ってしまう場合、飲み込んでしばらくしてから喉などに残っていた食べ物が気管に入る場合がある。また、寝ている時に唾液が無意識の内に気管に入ってしまうこともあり、誤嚥は食事中だけにおきるとは限らない。飲み込みを失敗してしまった食べ物などが肺の方にまで入り込み、付いていた細菌によって炎症が起こることで誤嚥性肺炎が引き起こされる。高齢者や免疫力の低下している人が肺炎になると重症化しやすいので、十分に注意する必要がある。
基本的に、茶や水などのサラサラした液体をむせずに嚥下できれば、ほとんどの食べ物でむせる危険性は低い。

 ・誤嚥を防ぐための方法

*上体を前かがみにした姿勢が自然に飲み込める姿勢
*起き上がることが難しくベッド上で食事をとる場合、最低でも2030度くらい上体を起こす
*刻み食(小さく刻んだ食事)やソフト食(舌で潰せるぐらい柔らかい食事)、とろみをつけた飲み物など、飲みこみやすさを意識したメニュー
*意識や注意力が低い状態の場合には声かけ
*食後2時間程度は座位を保つ(食べ物が胃から逆流して気管に入ることを防ぐため)

・食事介助の方法

身体、嚥下、意識などの障害の状況によって、使用する福祉用具もヘルパーの対応も様々で、以下に挙げるのはその中の一例。

*福祉用具を使えば、ほぼ自立した食事がとれるケース
利用者が改良されたスプーンや自助具といった福祉用具を使用する。ヘルパーは刺身に醤油をかけたり、食べやすいように皿の配置を変えたり、状況次第では細やかな介助が必要になる。

*ヘルパーが食事介助を全介助で行うケース
ヘルパーが箸やスプーンを動かして利用者の口へ食べ物を運ぶ。複数ある料理の中から利用者の食べたい料理の順番、もしくは食べたくない料理など、ヘルパーが勝手に選択するのではなく利用者の希望を聞きながら介助を進める。

*嚥下や咀嚼に障害があり、とろみ、刻み食などにするケース
刻み食(小さく刻んだ食事)やソフト食(舌で潰せるぐらい柔らかい食事)、とろみをつけた飲み物などの調理を行う。どの程度までというのは個人差があり、一人ひとりの状態を確認していく必要がある。

*注意力や意識の低下による誤嚥しやすい方のケース
注意力、意識が低下している状態で咀嚼、嚥下することは誤嚥の危険性が高く危険である。そこで、ヘルパーは利用者がそのような状態になっているときには適切な声かけを行わなければならない。

◆口腔ケア

・口腔ケアの目的

*楽しく豊かな食生活のため
*口から物を食べ続けられるようにするため
*口腔内だけでなく全身の健康管理のため
⇒清潔の保持
⇒歯周病、虫歯の予防

認知や知的に障害がある方への対応の際にも、利用者の自立という観点を持ち、できる限りご自身でやって頂く。

・口腔ケアのポイント

*歯垢の除去
歯垢は歯の表面に付着して増殖する細菌のかたまりで、ムシ歯や歯周病、口臭などの原因となる。
歯垢は粘着性が強く歯の表面に付着するので、うがいでは取り除くことができない。特に奥歯の噛み合わせ面や歯と歯の間などの磨きにくい部分に残りやすいので、注意が必要。

*食物残渣の除去
食物残渣とは、口腔内に残ってしまった食べ物などのかすのこと。口腔内の運動障害、感覚障害などのある方は、麻痺側の歯ぐきと頬の間に食物が停滞しやすいため、それに留意して口腔内を清掃する。

*舌苔の除去
口臭の主原因である舌苔の除去は、舌苔が多くついている起床後に舌ブラシなどを使って舌の清掃を行うのが良い。普通の歯ブラシを使用すると舌を傷つけてしまう。また、特に舌苔がついていない場合、舌を清掃する必要はない。

◆排泄介助

・排泄介助のポイント

*利用者の精神的負担をなくすことが最も重要で、利用者の心情を理解しながら声かけを行い、できるだけ人の目にふれない環境作りを心がける。
*焦りなどもあるため、ベッドやトイレからの転倒、転落などに注意する。
*準備や介助に時間がかかってしまうと利用者が気兼ねしてしまうこともあり、素早い動作を心がける。
*利用者の羞恥心への配慮をしながらも、排泄物や露出している身体部分の観察を行い、健康状態の把握に努める。

・要介護者の排泄の主な方法

*ポータブルトイレ
ポータブルトイレは、ベッドから離れることはできるがトイレまで行くことが困難、または、トイレまでの移動が不安定な人のために、主として寝室で使用する便器
*尿瓶
トイレに行けない人が排尿するときに用いる。ガラス製とプラスチック製という素材の違いがあり、男性用と女性用では形状が異なる。また、座位でも立位でも使用できる。
*差し込み便器
トイレ、ポータブル便器を使用できない人が、ふとんやベッドの上で使うもので、寝ながら排泄することができる。ただし排泄口の関係上、重力を利用して排泄することが出来ないため、腹圧を余分にかける必要がある
*はくオムツ、テープでとめるオムツ
一般的に立位や歩行している時間の多い方にははくタイプ、ベッド上で寝ている時間が多い方にはテープのおむつを使用することが多い。

・排便時のおむつ交換

以下、あくまで一例であり、利用者の状況次第で対応方法は変化する。事前に利用者に確認しておく必要がある。



・準備

*室温の設定、プライバシーへの配慮
*新聞紙:ベッドサイドの床に夕刊1回分くらいを広げて置く。
*使い捨て手袋:慣れないうちは両手に3枚ずつくらい重ねてつけて、適時1枚ずつ剥ぎながら対応すると良い。
*敷きオムツ:ベッドを汚さないようにするためおむつ交換の対応際にベッドに敷く。
*トイレットペーパー:対応を開始する前におしりを拭きやすい状態にしたものを必要な量作っておくと、時間がかからずにトイレットペーパーのロールを汚染する心配がなくて良い。
*おしりふき:トイレットペーパーで付着した便をふき取ってから、こびりついた便などを取るのに使う。
*陰洗ボトル:300Ml程度のぬるま湯を入れて用意しておく。
*石鹸・ボディソープ等:片手で扱えるように準備しておくと良い。肌の状態に合わせて選択する。
*温タオル:水をしぼってレンジで加熱した物を用意(500Wなら1分程度、やけどに注意)
*新しいオムツ:利用者によって、また、時間帯によっても対応が異なる。
*新しい着替え:寒くならないよう準備しておくと良い。
*ゴミ袋:汚染されたオムツ、新聞紙、トイレットペーパー等を密封して廃棄する際に使用する。

・便を取り除く

*下半身の下に敷きオムツを敷きながら、ズボンを脱がす。
*仰臥位の状態でおむつを開き、肌や陰部に付着した便をトイレットペーパーで取り除く。
*こびりついた便をおしりふきで拭き取る。
*お尻がきれいになったら、便や汚れたトイレットペーパーなどで利用者を汚さないようにオムツを丸め込み、側臥位にする。
*側臥位ででん部をトイレットペーパーとおしりふきできれいにする。
*下半身全体がきれいになったら汚れたオムツを取り除く。

・洗浄

*下半身全体からきれいに便を取り除いた後、ベッドに水が浸みていかないように敷きオムツやパットを使用する。(利用者の清潔が保たれるようであれば、排便したオムツに排水を吸い込ませても構わない)
*陰洗ボトルでお湯をかけ、温タオルで拭いていく(必要に応じて石鹸やボディソープを使う)
*タオルの面を替えながら汚れていた下半身全体を拭いていく。

・着衣と片付け

*身体の下に新しいオムツを敷き、利用者につけていく。
*この時、濡れた敷きオムツなどは同時に取り除く。
*着衣を行う。
*ゴミをビニール袋に密封して廃棄し、空気の入れ替えを行う。

◆入浴介助

・清潔保持の方法と援助のポイント

*入浴以外に、シャワー浴、清拭といった方法がある
*バイタルサイン(血圧・脈拍数・呼吸速度・体温の測定など)による入浴の可否の判断
*入浴前の準備
*全身の観察
*安全面への配慮
*入浴による体力の消耗への対応

・入浴に使用する主な福祉機器

*浴槽内椅子
浴槽内いすは、浴槽台とも呼ばれる。浴槽が深すぎる場合の出入りを容易にする。また、浴槽からの立ち上がりが困難な場合に、腰かけて入浴すると、立ち上がりが容易となるが、肩までお湯につかれないことが多い。

*シャワーチェア
シャワーを浴びる、洗体、洗髪の際に座るいすで、キャスターのないものはシャワーチェアと呼ばれる。背もたれの有無、座面の形状・材質などについては様々である。座面の中央部に窪みを設ける、形を便座状とするなど、陰部を洗いやすいようにした製品もある。キャスターの着いたものは、シャワーキャリーと呼ばれ、浴室と脱衣場の段差が無い場合、外で脱衣して着座した状態で浴室まで入ることができる。

*すべり止めマット
浴槽内で滑ることを防ぐ目的で使用する。多くのものが裏に吸盤などがついていて、浴槽内底面に吸着させることが出来る。

*浴槽用手すり
滑りやすい浴槽への出入りは、本人が掴まることのできる手すりがあることが望ましい。浴槽用手すりは、浴槽の手前に手すりを設けたい場合などに使用する手すりであり、万力状に浴槽の縁をはさんで固定する構造になっている。

*すのこ
浴室内すのこは、脱衣場と浴室の段差をなくする目的で用いる。段差があると歩行に危険があり、浴室の外からシャワーキャリーなどに乗せたまま浴室に入ることは難しい。この場合、すのこを洗い場の床に据え置くことにより、浴室への出入りを容易にすることができる。

・バスボードを利用した入浴方法

バスボードとは、浴槽の上に腰掛ける場所がない場合に、浴槽への出入りを助けるための腰掛ける台のこと。主に片麻痺の障害など浴槽へ入る動作に不安がある方に使用する。

*バスボードに腰掛けてもらう。
*浴槽側の足から順番に支えながら入ってもらう。
*浴槽内でゆっくり立ち上がってもらい、バスボードを外す。
*ゆっくり腰を落として入浴する。

・リフトを利用した入浴方法

立位を取るのが困難な方、転倒の危険性が高い方など足に十分なふんばる力がない方の入浴に使用する。
*車いす上などで利用者の体にネットを正しく装着する。
*ネットをリフトのフックの部分に引っ掛ける。
*安全を確認しながら上にあげ、浴槽や浴室に移動し、利用者を降ろす。

・ケリーパッドでの洗髪介助

ケリーパッドとは、ベッド上で横になったまま洗髪する際、頭にかけたお湯がこぼれないように作られた介助用具のこと。大きめのタオルとビニール袋があれば簡単に作れるため、気軽に使用できる。




◆感染症予防とマスク、手袋の使い方

・概要

感染症とは、目に見えない多くの微生物の病原体の感染により、それが人体に侵入することで引き起こされる疾患の総称。感染症は3種の要因が重なることで起こるため、いずれかの要因を取り除くことができれば感染症に罹ることはない。病原菌(原因となる微生物)、感染経路(新たに感染を起こす経路)、感受性宿主(その人の免疫力)が要因となるため、病原菌を死滅させる、感染経路を遮断する、免疫力を上げることが重要となる。

3種の要因とそれぞれの対策
病原菌(原因となる微生物)     →病原菌を死滅させる
感染経路(新たに感染を起こす経路) →感染経路を遮断する
感受性宿主(その人の免疫力)     →免疫力を上げる

・感染ルート

*接触感染(直接感染)
宿主に直接触れる、またはその宿主が使用したものに触れることによって感染。例:伝染性膿痂疹などの皮膚疾患、流行性角結膜炎などの眼科疾患、性感染症など。

*飛沫感染
宿主の咳やくしゃみ、会話などの時に発生する飛沫を、鼻や口から吸い込むことによって感染。例:風疹、エボラ出血熱、インフルエンザなど

*血液感染(交差感染)
注射や輸血、歯科治療といった医療行為、外傷による出血が粘膜に触れるなどして、血液中の病原体により感染。例:HIVB型肝炎、C型肝炎など

*介達感染
汚染されたものなどを媒介として感染。例:食中毒、B型肝炎、結核など

*飛沫核感染(空気感染、塵埃感染)
飛沫として空気中に飛散した病原体を、鼻や口から吸い込むことによって感染。例:麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)、結核など

*唾液感染
唾液の中に生息する病原体が口移しやディープキスなどで唾液を介して感染。例:虫歯など

*経口感染(水系感染、水系流行)
感染動物由来の肉や、糞便で汚染された水などの経口摂取により感染。例:BSE、病原性大腸菌O157(ブドウ球菌)A型肝炎など。

*ベクター感染(水平伝播)
他の動物(特に節足動物)が媒介者(ベクター)となって感染。例:日本脳炎、マラリアなど

*母子感染(垂直感染、垂直伝播)
胎盤を通る血液を通じて感染する胎内感染、出産時の出血や皮膚の擦り傷を介して感染する産道感染、母乳によって感染する母乳感染。例:風疹、HIVB型肝炎など。

・標準予防策(スタンダードプレコーション)

標準予防策とは、次の湿性の生体物資をすべて感染性があるものとして扱うことである。
血液、汗以外の体液(唾液、鼻汁、喀痰、尿、便、腹水、胸水、涙、母乳など)、傷のある皮膚、粘膜。この予防策は感染症の有無にかかわらず、すべての人間に適用される。これらの湿性物質との接触が予想されるときには予防具を用い、処置の前後には手洗い・手指消毒を行うことが、基本である。手が目に見えて汚れている場合、血液・体液などによって見た目に汚れている場合は必ず手洗いを行う。見た目は汚れていない場合、手洗いを行った後の場合でも、以下の場合は速乾性手指消毒薬の使用、再度の手洗いが必要となる。
*患者に直接接触する前
*血液、体液、排泄物、粘膜、健常でない皮膚、創部ドレッシング部位に触れた後
*患者ケア中に汚染部位から清潔部位に手が動く場合
*患者のすぐ近くにある無性物(医療器 具を含む)に触れた後
*手袋を外した後

・手洗い

一番簡単で重要な予防対策は手洗いである。手を介して口、目、鼻などの粘膜から付着していた病原体が体内に入り感染するため、石鹸によるこまめな手洗いが感染の機会を減少させる。また、爪は短く切っておく、時計や指輪を外して洗うなども必要となる。
速乾性擦り込み式手指消毒薬なども有効だが、これも手洗いをした後に使用しなければ効果は低くなる。冬場は水仕事での手荒れから小さな傷ができ、それが感染の原因になることもあるので、ハンドクリームの使用も大事な予防対策である。

*手洗いをする時
入室前・退室後、食事介助前後、排泄ケア後、血液・体液・排泄物などで汚れたものを取り扱った後、汚れた衣類や寝具を取り扱った後、手袋を使用する場合は装着前後、その他手が汚れたとき

*手洗いの方法
流水で両手を十分に濡らす。(手首の上5cmくらいまで。水洗いにより付着した有機物を取り除くため。手に付着した有機物は、石鹸の作用を減弱させるため。)
石鹸を手に取りよく泡立て、指先から指の間、手首まで丁寧に洗う。(15秒以上)
流水で十分に洗い流す。(蛇口は直接手で触らない。せっかく洗った手が汚れてしまうため、手首や肘、ペーパータオルを使用して蛇口を開け閉めする。)
水分を拭き取る。(衛生的には頻繁に使用するタオルよりもペーパータオルの使用が望ましい)

*手洗いの種類(医療機関の場合)
「日常的手洗い」
目的:汚れおよび一過性微生物の除去 方法:石鹸あるいは界面活性剤を用いて1015 秒以上洗浄する
「衛生学的手洗い」
目的:一過性微生物の除去あるいは常在菌の除去、殺菌 方法:抗菌性の石鹸、界面活性剤、アルコールをベースにした擦式手指消毒薬のいずれかを用いて1015 秒間以上手指をこすり洗いする。目に見える汚れがない限り、アルコールベースの擦式手指消毒薬による手指消 毒を優先させる。石鹸と流水では消毒にならないことに注意する。
「手術時手洗い」
目的:一過性微生物の除去と殺菌および常在菌を著しく減少させ、抑制効果を持続させる 方法:抗菌性石鹸あるいは界面活性剤溶液を用い120 秒間以上ブラシでこすり洗いするか、アルコールをベースにした消毒薬を 20 秒以上擦り込み手指を消毒する

*手荒れ予防対策
手荒れは石鹸の使用で皮膚のpHが高くなり、脂質や水分が表皮から奪われ表皮剥離が発生しやすくなる。荒れた部分に細菌が定着し交差感染の危険性が増える
「手荒れや傷がある時は手袋を使用する」
「刺激の少ない石鹸または擦式手指消毒剤を使用する」
「皮質の除去につながる温水の使用は避ける」
「十分な水で石鹸の化学成分を完全に洗い流す」
「ペーパータオルで強くこすらないように、やさしく、軽く叩くようにして水分を吸い取り、完全に手指を乾燥させる」
「日頃から保湿効果のあるローションやクリームでハンドケアを行う」

・うがい

うがいは日本独特の感染予防の生活習慣である。うがいは特に風邪予防に有効とされているが、インフルエンザに対しての効果はあまり期待できない。また、水でうがいを行うよりも食塩水でのうがい、食塩水でのうがいよりも緑茶でのうがいとそれぞれ効果が上がるが、いわゆる「うがい薬」を混ぜたものでうがいを行うと、かえって効果がほとんどなくなるという調査結果がある。これは、ヨード液がのどに常在する細菌叢を壊して風邪ウイルスの侵入を許したり、のどの正常細胞を傷害したりする可能性があるためである。うがいのマナーとしては、欧米では人前や食事の時間帯にうがいをすることは下品だと見なされているため注意する。

*うがいのやり方
まずは水を口に含み、歯を磨いた後に行ううがいの要領で「ぐちゅぐちゅ、ぺっ」と口うがいを行う。(「ぶくぶくうがい」)
続いて水を口に含み、上を向いて喉の奥まで「がらがら」と行う。
口に含んだ水が温かくなってきたら吐き出す。(23回、「がらがらうがい」を繰り返す)
いきなり「がらがらうがい」を行うと、口内の細菌・ウイルスが喉まで運ばれて粘膜に張り付いてしまうため、最初に「ぶくぶくうがい」を行うことが重要。

◆マスク、手袋の使い方

・マスク

*マスクの使い方
自分の顔にあった大きさ・形のマスクを選ぶ。(大きすぎても小さすぎても「すき間」ができてしまう)
ワイヤー入りのマスク:装着前にワイヤーを自分の鼻の形にあわせて山折り、谷折りしておく。
プリーツ式のマスク:ほほにもあごにも隙間ができないような位置に伸ばす。
マスクの両脇を押さえて、顔に密着させる。

*マスク使用の注意点
「必ず鼻を覆うこと」
ウイルスを吸引する箇所が露出しており、マスクの効果が大幅に減少してしまう。
「あごにかけること」
細かな隙間からウイルスが入り込んでしまう。
「不織布マスクは原則使い捨て」
1日1枚を目安に使用し、再使用しない。
「使用中のマスク、使い終わったマスクになるべく触れない」
マスクの表面にはウイルスが付着していることが考えられるため、外す際にはゴム部分を持って外す。

・手袋

*手袋の使い方
箱からつまんで取り出す。
できるだけ手袋の表面に触れないように装着する。
装着した手で箱から手袋を取り出す。
もう一方の手に、できるだけ手袋の表面に触れないように装着する。

*手袋の外し方
手袋の袖口から、表面が内側になるようにひっくり返しながら抜いていく。
手袋を抜いた後、まだ手袋をしている方の手の中で丸めて握る。
手袋を外した手で、もう一方の手袋の袖口の中に入れて同様にひっくり返す。
手袋を廃棄する。

*手袋使用時の注意点
自分の手のサイズにあったものを使用する。
手袋は使い捨てのものを使用する。
手袋着用の前後に手洗いを行う。
1回の処置ごとに交換する。
使用後の手袋をしたまま、他のものに触らない。
ラテックス(天然ゴム)の手袋の場合、アレルギーの有無を確認する。

◆主な感染症

・風邪(風邪症候群)

【概要】
いわゆる「風邪」は、医学的には「急性上気道炎」「感冒」「風邪症候群」などのことである。「風邪」とはあくまで症状名であり、風邪の症状であっても疾患・疾病名が他にあればその名称で呼ぶ。風邪は最も一般的な感染症であり、鼻やのどなど上気道の粘膜や消化器に病原体(ほとんどがウイルス)が感染して起こる急性の炎症性疾患である。
【原因・感染ルート】
空気感染・接触感染・飛沫感染。免疫力が低下していると感染しやすくなる。ウイルスなどが細胞に侵入し感染すると、免疫システムがそれらを排除しようとするため、発熱や咳、くしゃみなどの症状が出てくる。
【予防策】
手洗い。うがい。十分な休養。マスクの着用。乾燥を防ぐ。喫煙や受動喫煙を避ける。
【感染した場合の対策】
安静にして十分な睡眠をとることで免疫力を上げることが何よりも重要である。風邪から肺炎や気管支炎を起こす場合もあり、ただの風邪と軽く見てはいけない。また、風邪薬は適切に使用しなければならない。抗生物質は風邪から細菌性の肺炎や気管支炎になってしまった場合は意味があるものの、ただの風邪には使っても無意味であり、むしろ有害である。
実際に風邪を治しているのは人体が本来持っている免疫力であり、抗生物質を飲んでも飲まなくても風邪をひいている期間は同じという調査結果もある。米国小児科学会が一般向けに作っているパンフレットでは、抗生剤をかぜなどのウイルス感染症に使ってはいけないとされている。抗生剤が使われると抗生剤に効く菌(感受性菌)だけが殺され、抗生剤が効かない細菌(耐性菌)だけが生き残って増殖を続け、耐性菌に感染する機会が増える。
いわゆる風邪薬とは対症療法を行なう薬であり、体温の上昇が極端に激しい場合は危険回避のために解熱剤を使用する。ただし、それ以外の場合で使用することは、免疫力を低下させて風邪を長引かせる可能性がある。

・感染性胃腸炎 (特にノロウイルス)

【概要】
冬季から春先を中心に流行する、ノロウイルスやロタウイルスなどを原因とする胃腸炎の総称。潜伏期間は2448時間で、主症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛であり、発熱は軽度である。通常、これら症状が12日続いた後、治癒し、後遺症もない。また、感染しても発症しない場合や軽い風邪のような症状の場合もある。
【原因・感染ルート】
ほとんどが経口感染。非常に感染力が強いので、汚染を広げないように十分に注意する。感染ルートは以下の4パターン。
*感染した人のおう吐物や便に触れた手を介してウイルスが口に入る。
*おう吐物や便が乾燥してから細かな塵と共に舞い上がり、その塵と一緒にウイルスを体内に取り込む。
*感染した人が十分に手を洗わず調理した食品を食べる。
*ウイルスを内臓に取り込んだカキやシジミなどの二枚貝を、生または不十分な加熱処理で食べる。
【予防策】
手洗いが最重要である。トイレ後、調理の前、食事の前には必ず手洗いを行う。また、感染が疑われる人のおう吐物・便の処理に注意する。処理は部屋の換気をしながら行う。使い捨て手袋とマスクをしてから漂白剤(ハイターなど)で消毒し、飛散しないようペーパータオルなどでしっかりとふき取り、更に漂白剤(ハイターなど)で周辺の広い範囲を含めてよく消毒する。
【感染した場合の対策】
このウイルスに効果のある抗ウイルス剤はないため、対症療法が中心となる。特に、体力の弱い乳幼児、高齢者は、脱水症状を起こしたり、体力を消耗したりしないように、水分と栄養の補給を十分に行うようにする。止しゃ薬(いわゆる下痢止め薬)は、病気の回復を遅らせることがあるのでなるべく使用しない。

・腸管出血性病原性大腸菌(O157など)感染症

【概要】
29(多くは25)の潜伏期間の後、激しい腹痛を伴う頻回の水様便、続いて血便が見られる腸管感染症。発熱は多くの場合37度台と軽度であり、無症状から重症まで症状は様々である。
【原因・感染ルート】
ベロ毒素を出す腸管出血性大腸菌(O157などを病原体とする。大腸菌は家畜や人の腸内に存在しほとんどは無害だが、一部が人に下痢などの消化器症状を起こす「下痢原性大腸菌」であり、さらにその中でもベロ毒素を産生する菌を「腸管出血性大腸菌」と言う。感染ルートは牛肉や牛レバーなどの生食や加熱不十分な肉類、その食肉等から二次汚染した食品などが原因となる食中毒と、経口感染による感染がある。
【予防策】
腸管出血性大腸菌は加熱や消毒薬により死滅するため、食中毒対策を行う。食中毒予防の原則は、食中毒菌を「付けない、増やさない、殺す」。家庭での予防は以下の点に注意する。
*食品の購入
肉、魚、野菜などの生鮮食品は消費期限などに留意し新鮮な物を購入する。肉や魚は水分がもれないようにビニール袋などに分けて包む。冷蔵品や冷凍品などの食品の購入は最後にし、購入したら早めに帰宅する。
*食品の保存
冷蔵品や冷凍品などの食品は、持ち帰ったらすぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れる。細菌の多くは10℃で増殖がゆっくりとなり、-15℃で増殖が停止するため、冷蔵庫や冷凍庫の詰めすぎに注意する(目安は7割程度)。肉や魚はビニール袋や容器に入れ、冷蔵庫の中の他の食品に汁などがかからないようにする。肉、魚、卵などを取り扱う際は、その前後で手を洗う。
*調理前
必ず調理前には手を洗い、生の肉、魚、卵を取り扱った後、トイレに行ったり鼻をかんだりした後などにはその都度手を洗う。タオルや布巾は乾いている清潔なものを使用する。
*調理
生の肉や魚などの汁が、果物やサラダなど生で食べる物や調理の済んだ食品にかからないようにする。包丁やまな板を使用する際は最初に果物や野菜など生で食べる食品から用い、生の肉や魚を切った包丁やまな板は洗ってから熱湯をかける。野菜はよく洗う。冷凍食品など、凍結している食品を常温で解凍すると食中毒菌が増える場合があるため、解凍は冷蔵庫の中や電子レンジで行う。流水解凍の場合、密閉性の高い容器に入れて流水を使う。また、冷凍や解凍を繰り返すと食中毒菌が増える場合がある。中心部の温度を75℃で1分間以上加熱することで、食中毒菌がいる場合でも殺菌することができるため、十分に加熱する。清潔な手で、清潔な器具を使い、清潔な食器に盛りつける。
*食事
食事の前には手を洗う。温かい料理は65℃以上、冷やして食べる料理は10℃以下にすることが望ましい。調理前の食品や調理後の食品を常温で長く放置しない。(例:O157は常温でも1520分で2倍に増える)
*残った食品
残った食品を扱う前も手を洗う。残った食品は清潔な器具、皿などを使って保存する。時間が経ち過ぎたら捨てる(怪しいと思ったら捨てる)。温め直す時も十分に加熱する(目安は75℃で1分以上、汁物は沸騰するまで加熱)
【感染した場合の対策】
下痢に対して整腸剤を用いるなどの対症療法が中心。水分補給・安静に努め、消化しやすい食事を摂取する。食事前、トイレ後は十分に手洗いを行う。

・インフルエンザ

【概要】
インフルエンザウイルス(A型・B型・C)を原因とする呼吸器感染症。13(最長7)を潜伏期間とし、高熱、全身の関節痛、筋肉痛、咳、鼻水などの症状が出る。特徴として、いわゆる「風邪」に比べ全身症状が強く出る。鳥インフルエンザについては未解明なことも多いが、日本では人間への感染はこれまで報告されていない。
【原因・感染ルート】
飛沫感染、接触感染。
【予防策】
手洗い、室内の加湿と換気、予防接種。(予防接種については効果がないという説もある)
【感染した場合の対策】
対症療法としては抗インフルエンザ薬による治療が中心。細菌の混合感染による気管支炎などを併発している場合、抗生物質が処方されることもある。
感染した場合は外出を控え、咳エチケットを守りマスクをする。

・疥癬

【概要】
「ヒゼンダニ」というダニが人の皮膚に寄生・産卵し、かゆみを伴う皮膚病。人から人に感染し、知られている皮膚疾患の中でかゆみは最高度である。通常疥癬と角化型疥癬(ノルウェー疥癬)とあって寄生数の違いによる感染力の差異があり、混同しないことが重要となる。感染直後は全く症状がないが、感染後約46週間で多数のダニが増殖し、アレルギー反応としての激しい痒みが始まる。なお、角化型疥癬の患者から感染を受けた場合には多数のダニが移るので、潜伏期間も45日と非常に短くなる。
通常疥癬では丘疹(小さいブツブツ)、結節(丘疹よりも大きい、小豆大の隆起物)、疥癬トンネル(ヒゼンダニが侵入していくために皮膚の下にできるトンネル)などが頭部以外の全身にみられ強い痒みを伴う。ただし、丘疹は疥癬以外の皮膚疾患でもみられる。
角化型疥癬(ノルウェー疥癬)は皮膚の角層が増殖し、灰色~黄白色の鱗屑がつくのが特徴。患者の周りにフケのような大量の角質が落ち、激しい痒みを感じる場合と全く痒みは感じない場合がある。
【原因・感染ルート】
大半は接触感染で、直接肌と肌が接触することによって感染するが、通常の社会生活で普通の疥癬患者と数時間並んで座った程度では感染する可能性はほとんどない。まれに疥癬患者が使用した寝具や衣類などから感染することもある。ただし、角化型疥癬の場合は短時間の接触で感染する。また、寝具や衣類を介しても簡単に感染する。角層内に多数のダニを含んでおり、皮膚から剥がれ落ちた角層に接触するだけでも感染する。
【予防策】
すべての感染症予防の基本となるのは手洗い。また、疥癬の早期発見と早期対応が重要である。
【感染した場合の対策】
*通常疥癬
過剰な対応は必要なく、特に隔離は必要ない。身体介護においても予防着や手袋の着用は必要ないが、入浴介助など長時間肌と肌が接触することは避ける。また、タオルなど肌に直接触れるようなものは別々に使用し、疥癬患者が使った後のリネン類は長時間直接触らない。
*角化型疥癬(ノルウェー疥癬)
不十分な対応をとらないことを重視する。個室への隔離が必要となり(12週間が目安)、隔離開始時と終了時には殺虫剤を使用する。身体介護においては予防着や手袋を着用し、使用後はビニール袋などに入れて廃棄する。また、シーツや寝具、衣類は毎日交換し、洗濯物はビニール袋に入れ、殺虫剤をビニール袋の中で噴霧し、24時間密封する。殺虫剤を使わない場合、洗濯物は50℃以上で10分間以上熱処理を行ってから通常の方法で洗濯する。疥癬患者が使用したトイレや車椅子などには直接触らず、粘着テープやウエットティッシュ、殺虫剤を使用するといった対策が求められる。また、共用することを避けてなるべく疥癬患者専用とする。

・結核

【概要】
結核菌が肺の内部で増殖し、特有な様々な炎症が起こる。続いて肺が破壊されていき、呼吸する力が低下する(肺結核)。また、肺以外の臓器が冒されることもあり、腎臓、リンパ節、骨、脳など体のあらゆる部分に影響が及ぶ(肺外結核)
初期の症状はカゼと似ており、せき、痰(たん)、発熱(微熱)などの症状が長く続くのが特徴。また、体重が減る、食欲がない、寝汗をかくといった症状もある。さらにひどくなると、だるさや息切れ、血の混じった痰などが出始め、喀血(血を吐くこと)や呼吸困難に陥って死に至ることもある。過去の病気という印象をもつ人も多いが、1997年に罹患率が増加に転じ、1999年に結核緊急事態宣言が出されるなど現代でも根絶できていない病気である。2013年の罹患率データでは、大阪、和歌山に次いで東京が第3位である。
【原因・感染ルート】
結核を発病している人のせきやくしゃみに含まれる結核菌を、他の人が吸い込むことにより感染する(空気感染)ただし、結核菌を吸い込んでも必ず感染するわけではなく、多くの場合は体の抵抗力によって追い出すことができる。菌が体内に残った場合、免疫が結核菌を取り囲み核を作るが、ほとんどの場合は免疫によって封じ込められたままであり、結核菌が活動を始めて菌が増殖していく「発病」はしない。このように菌が体内に残っているものの封じ込められたまま活動していない状態(感染)だけであれば周囲の人に感染させる心配はない。感染から発病に至る理由について詳細は判明していないものの、免疫力が弱まっているときは発病しやすくなる。そのため高齢者、過労、栄養不良、他の病気による体力低下などの際には注意が必要。
【予防策】
結核を早期発見し、感染拡大を未然に防ぐことが重要となる。栄養バランスのよい食事と十分な睡眠、適度な運動など免疫力を低下させないために規則正しい生活を心がける。また、子供の結核予防にはBCG(結核の重症化を防ぐワクチン)が有効であるが、成人の結核に対する予防効果は高くない。
【感染した場合の対策】
早期発見が重要となるため、2週間以上、せきや痰、微熱が続くようであれば早めに病院に行く。結核が発病していて結核菌をたくさん排菌(痰の塗抹検査で陽性の場合)している場合は入院となる。発病していても排菌していない場合は通院治療となる。入院期間は、排菌が停止して他の人に感染させないことが確認されるまでであり、平均的には65日程度。治療は抗結核薬など、34種類の薬剤を服用する。服用期間は基本的に6ヵ月だが、個人の病状や経過によっては長くなることもある。

・肝炎(特にB型肝炎、C型肝炎)

【概要】
肝炎とは肝臓に炎症が起きている状態(肝臓の細胞が破壊されている状態)であり、肝炎ウイルスによるウイルス性肝炎、薬物や毒物、化学物質による薬剤性肝炎、アルコールによるアルコール性肝炎、免疫系が自らを攻撃してしまうことによる自己免疫性肝炎がある。この中で日本での肝炎の多くはウイルス性肝炎。主な肝炎ウイルスにはA型、B型、C型、D型、E型の5種類があり、B型及びC型肝炎ウイルスの患者・感染者は合わせて300万人を超えており、国内最大の感染症とも言われている。B型、C型肝炎ウイルスは慢性肝炎になることが多く、長期間にわたり軽度の肝障害が続き、その後肝臓が繊維化して肝硬変や肝がんに至ることもある。A型、B型、E型肝炎ウイルスは急性肝炎になることが多く、急速に肝細胞が破壊されるために発熱、全身倦怠感、黄疸などの症状が現れるものの、自然経過で治癒することが多い。ただし、急性肝炎の発症から8週間以内に高度の肝機能障害を起こし、脳症などが現れる劇症肝炎もあり、生存率は30%程度である。B型肝炎とC型肝炎には、C型肝炎は感染後に慢性肝炎、肝硬変、肝がんといった病気になりやすく、B型肝炎はそれらにはならないことが多いものの感染力が強いといった違いがある。
【原因・感染ルート】
B型肝炎は垂直感染(母子感染)、性行為感染(そのため性感染症のひとつとも分類されている)C型肝炎は血液感染。(麻薬の注射器での回し打ち、刺青、輸血、血液製剤など)
【予防策】
肝炎ウイルスは空気感染をしないため、基本的には他人の血液に安易に触れないようにすることが重要となる。他人の血液に注意していれば日常生活のなかで感染することはほとんどなく、感染している人への差別などには注意する。
【感染した場合の対策】
インターフェロン療法などを用いる抗ウイルス療法と、肝庇護療法がある。インターフェロンという薬を注射する療法では、B型肝炎であれば約3割、C型肝炎であれば約5割から9割の人が根治可能。(ただし強い副作用を伴うことが多い)肝庇護療法は、抗ウイルス療法により十分な効果が得られなかった場合に、肝細胞が壊れる速度を遅くする療法。

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)

【概要】
MRSA は黄色ブドウ球菌(人間や動物の皮膚、腸内の常在菌であるブドウ球菌の一つ)が耐性化した病原菌であり、本来の言葉の意味としては抗生物質メチシリンに対する薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌のことだが、実際は多くの抗生物質に耐性を示す多剤耐性菌である。薬剤耐性菌であるため薬剤の使用が多い病院で見られることが多いが、近年では病院から街中へと広がっている可能性もある。MRSAは防御力や抵抗力のとても弱まっている入院患者には容易に感染し、感染すると普通の黄色ブドウ球菌の場合よりも治療しにくい感染症となる。代表的なMRSA感染症とは髄膜炎、肺炎、腹膜炎、腸炎、敗血症など。
【原因・感染ルート】
接触感染。患者のだ液、喀痰、膿汁、ただれた皮膚、便、まれに尿に含まれる。介護従事者の手指により媒介され伝播することもある。適切な消毒法を用いて、感染対策を行う。
【予防策】
日常的な感染対策をきちんと守ることで十分であり、特別なことをする必要はない。MRSA保菌の有無に関係なく、日頃から感染対策に注意する。(MRSAを保菌しているかどうかが検査をしていないために分からない場合も多くあるため)クリティカル器具(血流や皮膚の下の組織に入る器材や薬液、カテーテルや注射針など)は必ず無菌であるように、セミクリティカル器具(粘膜に接触する器材や薬液、吸引カテーテルなど)はなるべく無菌に近い状態に、ノンクリティカル器具(皮膚のみに接触する器材や生活用品、車いすや衣服など)は通常の衛生を保つように心がける。
【感染した場合の対策】
MRSAにも有効な抗菌薬が既に普及している。ただし、耐性菌の出現が少ない薬として治療に使用されていた抗菌薬に対する耐性菌も出現しており、使用には十分な注意が必要とされている。

・緑膿菌

【概要】
緑膿菌は人の皮膚、土や水の中に存在する代表的な常在菌の一種で、健常者に感染することはほとんどないが、免疫力の低下した人には感染して緑膿菌感染症の原因となる。呼吸器感染症、尿路感染症、褥瘡、敗血症などを引き起こす。
【原因・感染ルート】
保菌者から手指や医療器具、日常品を介して感染する。他の病原菌と一緒に感染(混合感染)することが多い。
【予防策】
日常的な感染対策をきちんと守ることで十分であり、特別なことをする必要はない。
【感染した場合の対策】
緑膿菌に対する抗菌薬が各種開発されているが、これに対し耐性を持つ緑膿菌(薬剤耐性緑膿菌、多剤耐性緑膿菌)も出現している。

医療的ケアを必要とする重度訪問介護利用者の障害及び支援に関する講義」のテキストはこれで終わりとなります。
貴重な時間を割き、最後までお読み下さいましてありがとうございました。

課題解答・質問入力フォームのページへ進む